日本はまたやってしまった:差別国アピールが止まらない ~キャッチポール若菜(映像翻訳者・通訳)


LinkedInのグループに、Professional Translators and Interpreters という、登録者数7万人を超えるコミュニティがある。そこでよく、世界中から翻訳周りのツールが紹介されるのだが、今回は日本の翻訳ツールが話題に上った。

株式会社ログバーが発表した、旅行に特化したウェアラブル翻訳機「ili(イリー)」だが、最初は「これって使えると思う?」という軽いコメントから、いつの間にか製品のプロモーション動画に対する議論へと、話題は翻訳からどんどん離れていってしまった。
 

日本人女性に対する人種的、性的差別と酷評されたプロモーション動画

動画の中で「ディーン」と呼ばれる英国人男性が東京の路上で見知らぬ女性たちと、そのデバイスを使ってキスをしようとする。
中には嫌がっている女性に「イギリスでは普通の事だよ」と言ったり、「やめて!」と怒って逃げた女性を嘲笑したりするシーンもあり、最後は彼が「誰も見てないから」と誰かにキスしそうなところで終わる。
 
これに世界中のソーシャルメディア・ユーザーが即座に「気持ち悪い」と反応。中には、これを制作した株式会社ログバーは日本人女性に対するセクシャル・ハラスメントのプロモーションをしているとの批判もある。(英ガーディアン紙
 
※リンク切れになる場合があります。

 
女性軽視やその他の差別については、近年、政治家のコメントを始め、広告やテレビ番組のシェアからも、差別がまかり通っている国だという印象をつけ続けている日本。せっかく近代的な翻訳デバイスを発表しても、そのプロモーションで世界に向けてとんでもないメッセージを送ってしまった。
 
ソーシャルメディアではバイラル効果で、同社への批判は止まらない。
 

日本国内でも高まっている問題意識

去年もルミネのコマーシャルが女性軽視が詰め込まれていた内容だと批判が殺到したのを覚えている人も多いだろう。仕事をがんばってやつれ顔の女性に「○○(別の女性)とは需要が違うんだから(あなたには職場の華としての役割は求めてはいない)」と男性社員が発言、セクハラCMとして炎上。公開後、即座に削除されたCMだ。
 
問題意識を持つ人たちは日本にも多いのに、結局、問題の動画のようなものが作られてしまうということ、更にiliは世界市場を意識していたのに、考えが及ばなかったところが何とも悲しく、腹立たしい。
 
日本人、特に女性が、海外に行くときに「I’m from Japan」と他人に自己紹介するのが恥ずかしいと思うようなプロモーション動画を作ってしまったことになる。

shibuya-tokyo
“Shibuya,Tokyo ” by Takayuki Miki (三木貴幸)
 

世界中で高まる女性軽視や差別に対する問題意識

インド、アフリカ、カンボジアなど様々な場所で性的差別を受けている女性の教育や権利などを守る運動が続けられている中、差別に対する世界の目は厳しくなり、その話題への関心も高まっている。
 
近年、自らをプロのナンパ師と名乗り、どうしたら女性とセックスすることができるかというセミナーを世界中で開催していた男のビザ発給拒否運動が世界中で巻き起こった。オーストラリア、英国、シンガポールなどで実際にビザの取り消し、または入国を拒否されている。男のセミナーの内容が女性を軽視したもので、レイプのプロモーションであるとされ、ネット上で署名運動が起こったのだ。
 
「東京の女の子はひっかけ放題だ」ととれる発言をセミナーで行っていたため、日本でも入国拒否運動が起きた件は多くの人が耳にしたことだろう。
 

若い世代で高まる問題意識

『ili』のように世界市場に打って出る企業なら、女性蔑視への問題意識は避けて通れない。なぜなら、若い世代における問題意識は、さらなる広がりを見せているからだ。
 
「女の子にも教育の権利を」と訴え続け、タリバンに撃たれ、それでも運動を続けたマララ・ユスフザイさん。17歳という史上最年少でノーベル平和賞を受賞することになった彼女の本は、日本でも翻訳出版され、更に映画も公開されたことは記憶に新しい。
 
また、17歳と言えば、ごく最近、話題になっているのが、アメリカのドラマ『モダン・ファミリー』のアレックス役、またディズニーの『小さなプリンセス』のプリンセス・ソフィアの声の役で知られる女優のアリエル・ウィンターさん。
 
自身の家族と一緒の、たまたまビキニ姿で写った写真をインスタグラムに投稿した際に、「デブ」「気持ち悪い」などの体型に対する誹謗中傷、また「(こんなの載せてコメントを)期待してるんでしょ (asking for it)」といったコメントを受けたのだが、それに対し、しっかりとした姿勢で批判し、また、同年代の悩める女の子たちに向けて強いメッセージを残した。(内容は本記事末に訳を記載。全文を読みたい人はこちら <英文>。)
 
さらに同性愛差別や女性軽視に当たるビデオを投稿した男性を痛烈に批判したことも話題になっている。
 

問題発言・問題行為とは何か

「今じゃ何でもセクハラなんて言われちゃうからねー」(昔はそんなことなかったんだから良いじゃん、と言わんばかりである。)などと言うような人は、きっと本当にどんなことが問題発言なのか、問題行為なのかわかっていないのだろう。
 
もし、これを読んで「自分かも」と思ったら間違い発言、間違い行為に至る前に次のことを念頭に浮かべてもらいたい。
 
「他人が嫌がることはしてはいけない」
 
それだけのこと。間違っても冗談で済ませようなどと卑劣な考えは選択肢にも入れないこと。
 
いくら素敵な女優や俳優を使っても、バックにノリのいい音楽をかけても、画期的なデバイスを紹介しようとしても、「嫌がっている人に何かをする行為」は問題行為。実際に「ili」の動画に対しては動画の削除と謝罪を求める署名運動 が行われている。
 
特に、文化・価値観・信条・性別・人種などの違う多くの人を対象にしているのなら、当たり前のこととして皆が覚えておくべきだと強く言いたい。
 
女優アリエル・ウィンターさんの投稿の抜粋:
 
“…you are expressing yourself and don’t you ever think you deserve the negativity as the consequence to what you are wearing- YOU ARE BEAUTIFUL. Celebrate you and don’t let anyone’s comments allow you to think less of yourself.”
 
何を身に着けていようと、それは自己表現。悪質な意見を受けて「しょうがないか」なんて思っちゃだめ。あなたは美しいんだから!ぜひ自分を褒めてあげて。誰のコメントを読んでも、自分を卑下することはしてはダメ。
 
文:キャッチポール若菜(映像翻訳者・通訳)
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2016-01-20 | Posted in コラムNo Comments » 

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