アメリカの音大ってこんなところ!【カリキュラム編 その1】~キャッチポール若菜(映像翻訳者・通訳)


つくづく、アメリカの大学は、卒業後に大学で専攻としていたことを仕事にして食べていけるようにすることを見据えた教育方針なのだろうと思う。実際、「音大にいる間というのはトレーニングなんだよ」というようなことを自分の教授から言われたこともある。オーケストラの教授からも「今ここに座っている仲間たちが君たちの将来の同僚たちなんだ」と何度も言われていた。
 
実際、今回の記事を書くにあたり、自分の母校の音大のホームページに何度も訪問することになったが、そこにも、大学という組織に入ったからには、社会に出たときに、一般教養を身につけ、どんな分野の人ともコミュニケーションを取れるようにするべきだと先人の音楽教授たちが考えてきた結果、このようなカリキュラムを組んでいる、というようなことが書いてあった。
 
とにかく大学としては送り出した後に路頭に迷わないように、ということは重要な教育目標の1つなのだなということが、今、振り返ってみるとよくわかる。
 

音大生は音楽しかやらない?

音大というと、演奏ばかりやっていて、普通の勉強はしていなかったんじゃないかと思う人がいるようだが、決してそうではない。音大とひと口に言っても、大きくconservatory(音楽院)とuniversity(大学)とあり、特に大学では、音楽専門コースのほかに、一般教育と呼ばれる母体の大学からの必須コースも相当ある。
 
(そのほか、よくハリウッド映画・ドラマなどで見る、フラタニティ、ソロリティなどのカレッジ文化や寮生活の様子がそのままあるのが大学だ。)
 

こんなにある!アメリカ大学の履修必須コース

必須コースごとに単位数が決められていて、音大の中でもパフォーマンス専攻の場合は全部で128単位を取れば卒業となる。
 
一般教育のコースは人文科学、芸術、自然科学、社会科学の各分野から選択される。
 
自然科学では必ず1つは主要コースのほかに実験のクラスも対でとることになっていた。
 
(※:選択科目については記事末のリストを参照。)
 
通常の大学の授業だけでも相当なコース数だが、これに音大の履修コースもこなさなくてはならない。音大の方では楽典、視唱法、音楽史、管弦楽編成法、指揮、ピアノ(主に伴奏を目的とする)、ほかの弦楽器演奏法…などを学ぶコースのほか、個人レッスン、室内楽、オーケストラと、自分が属さなくてはならない演奏グループと、さらにそのために個人練習をする毎日だった。
 
一つ不満だったのは、それぞれのコースごとに割り当てられていたsemester hours(単位数)が音楽分野のものは非常に少ないこと。例えば数学のコースなら週1時間のコースで3単位取れるのに、オーケストラは週4時間半のコースでたった1単位だ。
 
よく、音楽とビジネスをダブル専攻しているような学生もいたので、今考えると、彼らのこなしていただろう勉強量、また、将来への優れた計画性に脱帽せざるを得ない。
 
music-business
Mixer” by Andrew Carroll
 

現地の学生でもキツイ!? 半端じゃない論文の量

 
とにかく、卒業後に自力で生きていく力をつけさせるのがアメリカの大学というところで、考えられる分野はほぼさらうことになる。また、各授業のために読ませる読書量も相当なものだった。
 
そして毎年、必ずライティング力向上を担う科目が存在した。英語ではresearch paperという、いわゆる研究論文を書かせるコースだ。私が取ったコースでライティングがあった科目として覚えているのは心理学、楽典、音楽史、英語だ。
 
楽典と音楽史、そして英語は1セメスター取れば終わりのコースではなく、2~3年くらい続いたと記憶しているから、在学中の4年間を通して、少なくともセメスターごとに1~3度は論文を提出させられていた。これがFinal(期末試験)にあたり、成績評価の結構な率を占めてくれるので、私はいつも泣きそうだった。(ほかにライティングではない期末試験のコースや、ライティングもあるが、別にペーパーテストの期末試験のあるコースもあった。)
 
当時の論文は普通の英文フォントでフォントサイズ12くらい、ダブルスペースでA4、そして最低でも15ページくらいは書くのが必須だった。書き方は高校でやっているはずなので、簡単な指示書をもらうくらいだったと記憶している。実際、書き方についてはアメリカの高校に通っていた時に習っていたので、フォーマットなどは覚えていて、そこだけはよかった。
 
また、大学側にはライティングセンターというものもあり、どうしても書き方が分からない学生はそこへ行って助けてもらえる、というサポートはあった。
 
しかし英語を第二外国語とする者にとってはこの「サポート」もあまり意味がなかったように感じる。そもそも自分の英語ライティング能力が、その「サポート」を受けられるレベルにも達していなかったのだ。自分は音楽をやりに来たのだし、外国人なのだから書けなくて当然じゃないかという反発心もあり、なかなか思うように進まなかったのを覚えている。
 
コツを掴んで、やっと自分自身の力が出せるような論文を書けるようになってきたのは3年目か、もしかしたら4年目だったかもしれない。
 

音大生らしい期末試験

演奏コース(個人レッスン)の期末試験にあたるものは、Juryと呼ばれる実技試験だった。
 
これはいつも個人レッスンで行ってきたものを見せるというもの。形式は、教室に入り、目の前に教授たち3~4人がデスクに座って審査する中、演奏をする、というものだ。
 
前もってJuryシートというものに自分の名前や専攻、毎日何時間練習しているか、担当の教授は誰か…などの質問からそのセメスターで学んできたエチュード、楽曲、などなどを書き込み、試験までに審査員となる教授の人数分のコピーを作って持って行く。
 
Juryが終わると次のレッスンで、各教授が書き込んでくれたシートのコピーをもらい、それを見ながら自分の教授と今後の練習について話し合い、より良い演奏家を目指して訓練していくこととなる。
 
origami-violinist
Origami Violinist” by Ivan Svatko
 

伴奏者選び

さて、バイオリンなどを演奏する場合は必ず伴奏者をつけなくてはならず、個人個人が学内でピアノ科の学生に声をかけ、お金を払って自分の伴奏者になってもらっていた。
 
いつも100ドルくらいをチェックで払っていたのは覚えているが、それが数か月単位だったのかレッスン○回分単位だったのかは覚えていない。
 
でもこうして学生時代から、演奏者には対価を払う、というのはあの学校を出た皆が普通に思っていることだろう。
 
伴奏者には個人練習に付き合ってもらうのはもちろん、レッスンにも付き合ってもらうし、Juryや、卒業時にはリサイタルにも一緒に出てもらうことになる。そうなると、レベルが上がってくるにつれて、伴奏者選びも真剣になっていく。
 
学校内でも、誰かのリサイタルを見て、その伴奏者の評判が上がり、みんながその人に頼みに行くというような事態も発生した。そうなると、伴奏者の方でもパートナーとなるソリストを選ぶ立場になる。こちらも選ばれるような演奏をしなくては、と思うわけだ。
 

今になって思うこと

これを読んでみて、留学を考えていた皆さんはやっぱりアメリカの大学は大変だと思われるだろうか。
 
今回、この記事を書くにあたって色々と思い出しながら、また、母校のホームページを読みながら、あの頃の生活を考えてみたが、自分の中では正直「大変だった」と感じていた部分よりも「楽しかった」と感じていた部分の方が圧倒的に多い。
 
確かに周りでは卒業まで行かずdrop out(退学)してしまう学生もいたが、往々にして留学生はほとんど卒業まで漕ぎつけていたと思う。
 
類は友を呼ぶ・・・ではないかもしれないが、頑張っている者同士が友人関係を築いていたように見えた。
 
良くも悪くも「個人」が尊重される社会で、同じ目標を目指すものは声を掛け合って一緒に頑張り、嫌なものは断ればいいし、また、断れるのがアメリカの大学だったと思う。他人に深く関わるのも、関わらないようにするのも自分。
 
日本の集団社会に馴染めなかった人の中にも、もしかしたらアメリカなら「個人」としての自分の居場所を見つけることができるかもしれない。
 
次回は音楽専門科目についてご紹介!
 
(※参考)
一般教育の選択科目リスト
 
English 1100, 1200 (FC:EN) – 6 semester hours
Health (FC:HL) and Exercise and Sport Science
(FC:EX) – 3 semester hours
それぞれの分野から少なくとも1コースは必須
 
・人文科学と芸術分野
(FC:HU) (FC:FA) – 10 semester hours
 
次の分野から少なくとも1コースを人文科学から、1コースを芸術から、それぞれ受講必須:
 
■人文科学
Humanities (FC:HU)
Literature (English or American)
Literature in a foreign language or in translation
(See Departments of English and Foreign Languages and Literatures. Foreign languages 1001-1004 will not meet this requirement.)
Philosophy
Religious Studies
Selected Linguistics Courses
 
■芸術
Art
Communication (selected courses)
Dance
Music
Theatre Arts
 
・数学 – 3 semester hours
とにかく3単位分とることが求められる。数学、または倫理、または哲学の基礎コースに値するものを選択すること。
 
・科学 (FC:SC) – 8 semester hours
少なくとも1コースは実験と対で取る授業であること。
次の学部より1コース以上は受講必須:
Anthropology (ANTH 2015, 2016)
Biology
Chemistry
Geography (GEOG 1300)
Geology
Physics
 
・社会科学 (FC:SO) – 12 semester hours
次の分野から少なくとも3つのコースは受講必須:
Anthropology
Communication
Economics
Geography
History
Political Science
Psychology
Sociology
 
文:キャッチポール若菜(映像翻訳者・通訳)
この執筆者の記事一覧
 
この記事を筆者のサイトで読む
 

 
 
《これらの記事も読まれています》
■ 子どもと習い事とグローバル教育
■ 日本はまたやってしまった:差別国アピールが止まらない
■ 「ハーフ」の子育て
■ 海外の子ども用英語ドリルが面白くて効果あり !《リーディング編》
■ アメリカの音大ってこんなところ!【入試編】
 


関連記事