ドイツで働くオペラ歌手に問われる「歌プラス」の対応力~金子倫子(在ドイツ・メッゾソプラノ)


ドイツの劇場は基本的に長期契約で歌手を雇い入れます。年間を通して、所属する劇場での公演に出演を重ねる歌手たちはアンサンブル・メンバーと呼ばれ、様々なタイプのプロジェクトに臨機応変に対応しながら歌っていく能力が求められます。

この記事では、そんなドイツで働くオペラ歌手に、歌唱技術プラスアルファで求められる能力について解説します。

▼デュッセルドルフ、ドイチェ・オーパー・アム・ライン外観

 

語学力

ドイツでオペラ歌手を目指すうえで、何よりも欠かせないのは語学力です。どんなに歌が上手くても、ドイツ語がある程度流暢に話せなくては、長期契約での雇用はほぼ不可能です。

語学力は日々の稽古をスムーズに進めるために必要不可欠なだけではありません。ドイツの劇場に所属するオペラ歌手たちには、本格的なオペラばかりではなく、オペレッタやミュージカルなど、たくさんのセリフを含む作品への出演も求められます。そのため、舞台上でも通用するレベルのドイツ語を扱う能力が必要になります。
 

過激な演出を許容できるか

近年ドイツではオペラ上演において、伝統的な演出よりもモダン演出の舞台の比率が高くなっています。生々しい性的描写が盛り込まれることも多く、男声歌手が上半身裸になったり、女性歌手が超ミニスカートやビキニ、もしくは下着姿で登場するシーンも全く珍しくありません。歌いながらのベッドシーンも極々普通に取り入れられています。

演出家にそのようなシーンを求められたとき、ある程度許容する心構えは必要です。もちろんあまりに過激な場合には拒否したり話し合うことも可能ですが、現実問題それらのシーンに挑戦できない歌手は、大きなハンデを背負うことになります。
 

ダンスに参加することも

オペレッタやミュージカルには、必ずと言っていいほどダンス・シーンがあります。オペラ歌手もそのダンスには参加しなければいけません。もちろんプロのダンサーとは違うので、ものすごく難しい振り付けを強要されるようなことはありませんが、踊りながらでも歌える能力は必要です。

この種のプロジェクトに参加する場合は、音楽のリハーサルとは別に、ある程度の時間を割いてダンサーの指導の下、ダンス稽古が行われます。体を動かすのが苦手な人にとっては、かなりの難関になり得るポイントです。
 

マイクを使用する場合

野外オペラの場合など、音響環境のためにマイクを使うことはよくありますが、劇場内での公演でもマイクを使用する場合があります。

舞台裏で歌うシーンではスタンドマイクを使用することが多いですし、オペラ歌手のような発声技術を持たない役者と共演するミュージカル等の公演では、頬に小型マイクを装着して舞台に出ることも多くなります。

生の声で歌うことに慣れているオペラ歌手にとって、マイクを通して歌うというのは少々居心地が悪く感じるものです。しかし、ドイツの劇場では頻繁にその機会が訪れるので、上手に対応していかなければなりません。

▼デュッセルドルフ、ドイチェ・オーパー・アム・ライン内観

「オペラ歌手は歌さえ上手ければ良い」という考え方は、ドイツではもう過去のものです。

ダンサーのように上手く踊れなくとも、また俳優や女優のように美しいボディーではなくとも、「ある程度」の対応力がオペラ歌手にも求められています。

語学力、過激に思われる演出やマイク、ダンスなどへの対応力。音楽のジャンルが多様化したことと、一般的に劇場の経済状況が厳しくなってきていることから、オールマイティに何でもこなせる歌手が重宝される現実について、本日はお伝えしました。

文:金子倫子(在ドイツ・メッゾソプラノ)
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