9月は相次いで2016/17の世界大学ランキングが発表された。6日には英国の世界大学評価機関であるクアクアレリ・シモンズ(Quacquarelli Symonds=QS)が、21日には英国の教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)」が最新の世界大学ランキングを公表。日本のメディアではTHEのランキングで東大がアジア4位となりアジア首位を逃したことや、日本から上位200校に入ったのが東大39位と京大91位の2校だけだったことなどが取り沙汰された。
多様な進学の選択肢のなか、日本の高校生の間にも世界のトップランク大学を目指す流れが着々と生まれているようである。本記事では、高校の先生たちを対象とした米国のワールドランキングトップ大学視察研修の模様と、参加した先生たちの悩みや感想をお届けする。
カリフォルニア大学バークレー校
高校にますます求められる『グローバル教育のシステム』
「米国ワールドランキングトップ大学教育視察企画」が行われたのは2016年8月7日から14日。先生たちは自身の夏休みを返上して参加した。
特定非営利活動法人 日本国際交流振興会が企画・監修し、株式会社アイエスエイが主催。5回目の開催となる今回は、中学・高校の校長や英語科・進路指導担当者32校38名が参加。スタンフォード大学、カリフォルニア大学バークレー校、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学といった米国の上位校11校のほか、トップ校への進学に実績のある上位ボーディングスクールなどを訪問した。
アイエスエイで同研修および海外大学進学を担当するカレッジカウンセラーの中井氏によると、こういった研修に先生たちが参加する背景には、在校生からのグローバル進学の相談件数が着実に増えていることがあると言う。また、わが子のグローバルキャリアを見据えた親たちからの要望も大きく、海外進学がシステムとして高校に確立しているかを問う声が保護者側から挙がるようになっている現状も見過ごせないそうだ。
(中井氏)「どの学校でも、一年に何人かは海外進学を希望する生徒がいるとのことです。研修参加校はいわゆる偏差値上位校が多いのですが、わが子を偏差値上位校に入学させている親御さんはご自身がグローバルキャリアを経験しているケースも多く、ご自身が実感を持ってわが子の将来に危機意識を持っていて、グローバル教育を積極的にサポートする流れがあります。
今年の参加校のうち8校は公立校でしたが、他は私立校です。小中高一貫校においては、小学入学の説明会の時点で『中学・高校で何を提供できる学校なのか』が問われます。
グローバル教育に関心の高いご家庭では、海外進学についての情報収集力もあったり、子どもを小さなころから海外慣れさせていたりします。そのため海外進学についての一定の下地があるのですが、一方で進路指導する先生方の情報は遅れています。
何しろ、先生方は通常業務に加えて生活指導、部活動、国内進路指導・・・と多忙を極めています。ただでさえ情報量の多い海外進学は、関連書籍も少なく学びの機会が少ないうえに、SAT、TOEFLといった試験対策指導も含むため多岐に渡り、本当に追いつかないのです。」
結果的に、やる気のある先生ほど疲弊してしまう。
(中井氏)「今後は一部のエリート高校生だけでなく、中堅高校においても海外進学熱が高まっていくと予想されます。おのずと海外進学先についても難関校ばかりでなく、中堅大学への進学や、外国人学生への奨学金制度が充実している大学なども視野に入れていく必要があります。そもそも日本のトップ校と呼ばれる学校にいる子でも、ハーバードに進学できるのはほんの一握りなのですから。」
今回はトップランク大学への視察企画のため、日本からの参加校も偏差値上位校が中心だったが、来年以降は米国の中堅大学やコミュニティーカレッジも視察対象に入れていく予定だと言う。
先生たちの実際の声は?
それでは、実際に参加をしてみた先生たちの声の一部をご紹介しよう。
・アドミッションオフィスに提出された情報をどう集約して、合否をまとめているのか(奨学金の決定を含む)、アドミッションオフィス、ガイドの訓練、広報戦略、日本人の留学情報(場所、時期、行先、仲介、出身校、準備期間、etc)を新たに学ぶ必要があると感じました。
– 青山学院中等部 浦田浩教頭
・それぞれの教育機関の特長が違い、興味深かったです。トップレベル大学にストレートで学部生として入学する学生は希少ですので、ストレートで入学可能性のある学校も見てみたいと感じました。
– 栄光学園中学校・高等学校 望月伸一郎校長
・海外の大学進学も選択肢の1つにと考えていたが、具体的な指導について検討する必要性を感じました。
– 大阪府岸和田高等学校 山口陽子校長
・アメリカ大学への進学情報が決定的に不足していることを感じました。
– 埼玉県立浦和高等学校 杉山剛士校長
・「百聞は一見にしかず」の一言です。勉強になりました。内外を通じてのスカラシップの取り方などを学ぶ必要があると思いました。アドミッションの知識を学内でいかに共有するかが大切なので、上手い方法を考える必要があると思いました。
– 城北中学校・高等学校 海外研修責任者 紫藤潤一教諭
いずれも、ただ視察をして納得するだけでなく、見聞を学内にどう落とし込んで具体的な制度に作り上げていくかということを見据えていることがうかがえる。中井氏は研修の随行中、先生たちの目的意識の高さをひしひしと感じていたと語った。
(中井氏)「以前は先生方の意識もここまで高くはありませんでした。明らかに変わり始めたのは昨年あたりからです。
バスでの移動中をはじめ、米国の大学キャンパス内は広いですから研修中は校内をてくてくと歩きまわるのですが、そんな時間帯もたくさん質問が出ます。それも『実際にこのレベルの大学を狙えそうな層がわが校にいるんだけれども何から始めるのがいいのか』といった非常に具体性の高いご質問が増えてきましたね。」
トップ大学は日本人留学生に何を求めているのか
一方で、トップランク大学にもほしい学生像がある。本記事の最後に、大学が求める人物像や選抜基準について、各大学からのコメントを紹介する。
・日本の高校生に期待していることは、アメリカ人とは違う世界観、カリフォルニア人とは違うものの見方をしていることです。例えば、日本からの出願で『●●賞』受賞と書かれていることが多いのですが、名称だけでは中身が分からないため、具体的に貢献度や内容の説明を入れてほしいです。
– カリフォルニア大学バークレー校
・(当校の)留学生にはESLはありませんが、入学してからすぐに150ページの論文を書けるくらいの英語力が求められます。エッセイは荒削りでも、大人の手の加えられていない、生徒の生の声が聞きたいです。立派である必要はありません。
– ウェルズリー大学
ほかには、日本人留学生が抱える課題として「日本人は自己アピールが苦手です。自分がどのように周囲の人と違っているのか、そのユニークさを活かして大学でどのように貢献できるかをきちんと伝えることができれば、アドミッションの際、有利になります。」といったアドバイスも得られたそうだ。
いずれのコメントからも見えてくることは、画一的な優秀さではない。生徒個々のユニークさであり、その個性が大学という『社会』にどう影響を与えるかを意識し、適切にアピールすることである。
これは、従来の進路指導には少なかった視点であろう。先生たちには情報収集だけでなく、生徒の自己分析サポートや魅力の見せ方指導など多様なスキルが求められることになる。しかも、試験対策や入学基準は昨年の情報が今年もそのまま生きているとは限らない。
先生たちがもっと容易に、かつ継続的に情報提供を受けられるようなシステムづくりが官民通じてますます必要だ。
文: 若松千枝加(留学プレス編集長・留学ジャーナリスト)
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