アメリカの公立大学は国立ではなく州立か市立!州立大学と私立大学の違いも解説。

州ごとの自治制が重んじられるアメリカでは、公立大学は国立ではなく州立(一部、市立)です。

アメリカは「合衆国」です。複数の州が連合して単一国家になっている形態のため、ひとつひとつの州に法律があり、政府があり、予算があります。日本でも都道府県単位で行政はありますが、州は都道府県以上に大きな力を持ち、自立したミニ国家のような存在です。

教育についても同じ州内の州立大学は密接な関係にあります。日本では県内に2つ以上の国公立大学があっても密接な結びつきは稀ですが、アメリカの州立大学は編入・転入がスムーズにできるメリットがあったり、共同研究が多いといった連携の深さがあります。

この記事では「州立大学ってどんなもの?」「私立大学との違いは?」という疑問に対してわかりやすく解説します。また、州立大学と私立大学のどちらに留学するのが向いているのか、学生のタイプ別にご紹介します。

州立大学の特徴

ジョージア工科大学正面

州の住民に広く教育を提供

州立大学とは州内住民の教育レベルを底上げするという目的を持っています。そのため州内住民の授業料はかなり安く設定されています。ざっくり言って、州外住民(留学生も含まれます)の約6~10分の1程度の授業料です。

教育は治安を良くする

かつてアメリカの治安は悪化の一途をたどっていました。貧富の格差が広がり、低所得者層による犯罪が横行するようになっていました。

そんななか、州立の四年制大学・二年制大学(コミュニティカレッジ)が大きな役割を果たしました。それは、経済的に恵まれない人たちでも仕事に就けるような教育を提供すること。識字率が回復し、仕事に就けるようになれば経済的に豊かになります。そうすればおのずと犯罪率が低下していきます。

アメリカの州立大学は、アメリカの治安を下支えしている存在でもあるのです。

州内の大学同士が密接に連携

冒頭でも触れたとおり、州はミニ国家のようなもの。ミニ国家内の学校同士はとても密な関係を保っています。

二年制大学(コミュニティカレッジ)や四年制大学間の編入や転校は、州内ならとてもスムーズです。単位の振替も比較的しやすくなっています。

また、大学同士の共同研究も活発です。同じ州内の州立大学同士はもちろん、私立大学と州立大学であっても深い連携があります。

州立大学と私立大学の違いは?

ハーバード大学

授業料

まず大きいのが授業料の違いです。

州から予算が出ていること、州内住民に広く教育を提供する使命を持っていることから、州立大学の授業料は比較的安めに抑えられています。

一方、私立大学は独立自営です。授業料は州立大学とくらべると私立のほうが高めになっています。

しかし、留学生にとっては州立大学と私立大学の費用の差が縮まってきている風潮もあります。

州立大学は州内住民であればかなり安い授業料が設定されていますが、冒頭でも触れたとおり留学生は州外住民扱いとなり、高めの授業料が設定されています。さらに、州立大学のなかでもランキング上位の有名校になると、授業料がかなり高騰してきています。

一方、私立大学の授業料にはもともと留学生と米国民との差はありません。また、卒業生からの寄付が集まりやすいという面も持っています。留学生向けにも奨学金や補助が設けられているケースが少なくありません。潤沢な寄付金のおかげで、授業料設定自体が安い宗教系大学もあります。

学費が安めのアメリカ大学、穴場27校を厳選!一覧と各校の特徴をご紹介」の記事内でもご紹介していますが、最近は必ずしも「州立=安い、私立=高い」といった図式ではなくなってきているのも事実です。

編入のしやすさ

編入・転校のしやすさにおいては、州立大学に軍配が上がります。同じ州内のコミュニティカレッジから州立大学3年次への編入、州立大学から州立大学への編入や転校は州立同志のほうがスムーズです。

これにはカリキュラムの違いも関係しています。

私立大学はそれぞれ独自の方針をもって運営しています。カリキュラムは4年間を通して理想の人材を育成できるように組まれており、基本的には途中での編入や転校を想定していません。

そのため、途中から入る場合も、抜けて他大学へ行く場合も、履修単位の振替認定が複雑になってしまいがちです。途中編入を受け入れていない私立大学もあります。

大学規模と学生数

「州立大学=学生数が多く大規模」「私立大学=こじんまりしていて中小規模」と思っている人も多いのですが、実際には大学規模と運営形態はさほど関係がありません

確かに、古くからある州立大学には学生数2万人以上の総合大学が多いです。しかし、州立大学は続々と新設されていて、学生数5000人規模のところや、ひとクラスの人数が15人~25人といった大学もあります。

入試

州立大学も私立大学も、アメリカの大学入試では最終学歴(高校など)の成績と英語力が入学審査のメインとなります。そのほかに、各大学が独自に「小論文(エッセイ)」「推薦状」「SATやACTなどのテスト」などの提出書類を設けています。

私立大学のほうが推薦状や面接などを設ける割合がやや高めです。私立大学はそれぞれが独自の方針のもとで運営しているため、校風に合う個性と学力を持っているかどうかをより重視する傾向にあります。

また、州立大学入試で覚えておきたいのが「州立大学機構」の存在です。すべての州立大学にあてはまるわけではないのですが、一部の州立大学では複数の学校が集まってグループを組み「機構」の元で運営されている場合があります。

たとえばカリフォルニア大学機構(University of California System)には下記の10校が属しています。

カリフォルニア大学10校
カリフォルニア大学バークレー校(UC Berkeley)
カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UC San Francisco)
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UC Los Angeles)
カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UC Santa Barbara)
カリフォルニア大学リバーサイド校(UC Riverside)
カリフォルニア大学デービス校(UC Davis)
カリフォルニア大学サンディエゴ校(UC San Diego)
カリフォルニア大学アーバイン校(UC Irvine)
カリフォルニア大学サンタクルーズ校(UC Santa Cruz)
カリフォルニア大学マーセド校(UC Merced)

同じ機構に属する大学同士は、統一出願窓口を設けている場合もあります。一通の願書で、同じ機構内の複数の大学に出願できるケースもあります。

なお、いくつかの州立大学機構についてこちらの記事でも解説していますので、ぜひ参考にしてください。

「リベラルアーツカレッジ」イコール「私立」?

総合的に高い教養を持つ人材育成をするリベラルアーツカレッジ。ひとつの専門に集中する前に、いろんな知識を幅広く吸収することを重視する大学です。日本にもリベラルアーツ大学が少しずつ増えてきているため、耳にする機会が多くなっているかもしれません。

リベラルアーツカレッジでは、美術、数学、倫理、歴史、紛争…と広い範囲の授業から学び、一見関係がなさそうな別の分野も実はつながっていること、そして立体的な考え方や論理の組み立て方ができるような人を育てています。

リベラルアーツカレッジは私立大学に多い傾向があります。大学にもよりますが、学生数が比較的少な目で、教授と学生間の距離が近いのも特徴です。寮を持っている学校も多く、生活全体で学生同士の交流が多くなります。この距離感の近さは、ちょっと引っ込み思案な性格の留学生にとってはプラスに働く面もあります。

私立大学のイメージが強いリベラルアーツカレッジですが、州立大学のなかにもリベラルアーツ教育重視校はあります。5000人~10,000人程度の学生数でキャンパス内に寮を持ち、私立のリベラルアーツカレッジと変わらないシステムの州立大学もあります。

州内の大学と企業は密接な関係にある

「州(ミニ国家)」のなかでは、企業と大学も同志です。大学から優秀な学生が就職してくれれば企業はますます栄えるし、州内企業と大学で共同研究や共同開発を行うことも頻繁にあります。

学生にとってもメリットがあります。州内企業へのインターンシップができたり、企業からの実践的なカリキュラム授業が提供されたり、キャリアワークショップやメンターシステムなど、さまざまな形で企業と関わることができます。

企業との連携は州立大学も私立大学も同じように密接です。もし、興味のある企業があれば、その企業がある地域への進学を検討してみてもいいでしょう。

たとえば、デジタル・テック・スタートアップなどに興味があるならシリコンバレーを擁するカリフォルニア州、任天堂やアマゾン、マイクロソフトなどが集まるワシントン州、エンターテインメントとの関わりが強いロサンゼルス界隈、観光産業との関わりが強いネバダ州やフロリダ州、多様なビジネスに加え金融にも強いニューヨーク州、といった具合に、自分の将来をいろいろ想定しながら、大学選びの視察旅行をしてみるのも面白いのではないでしょうか。

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あなたが向いているのは私立?州立?

ニューヨーク州立大学オルバニー校

東京大学と京都大学が、両方とも国立大学でありながらそれぞれに個性があるのと同じように、アメリカの州立大学それぞれも違う個性を持っています。ましてや、独自の方針を大事にする私立大学は、さらに確固たる信念を持っています。

同じくらいのレベルにある州立大学と私立大学を併願する人も少なくありませんが、大局的にそれぞれに向いている学生タイプを分けると次のような表になります。

州立に向いている人私立に向いている人
コミュニティカレッジから編入したい人
学費を安めに抑えたい人
地元出身の学生と交流したい人
奨学金も視野に入れたい人
大学の方針に共感した人
女子大に入りたい人
(州立の女子大はほぼ共学化している為)

自分に合う大学を選ぼう

アメリカには国立大学はなく、公立大学は州立(または市立)です。州立大学と私立大学は学費面や大学規模、州内のシステムなどに違いがあります。

しかし実際の大学選びで肝心なのは学校それぞれの個性です。強い学部、レベル、方針、立地、学費、卒業後の進路、クラブ活動などを考慮していく必要があります。

日本人留学生に人気の高いアメリカ大学を州立・私立にわけて「アメリカ大学一覧|日本人留学生に人気・注目の大学リスト」でも解説していますので、ぜひ参考にしてください。

四年間を過ごす学生生活。今後一生、履歴書に記していく自分の学歴。ともに充実したものになるよう、後悔のない大学選びをしていきましょう!

(留学プレス編集部)

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)
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