残業規制に揺れる日本。ドイツ人は日本人の10%も残業しません。~クリューガー量子(ハイデルベルク市公認ガイド)

残業上限規制で揺れている日本にとって、ドイツ人の『1年』の平均残業時間と日本人の『1カ月』の平均残業時間が同じであることを、知る意味があるかもしれません。
 
2013年のドイツの労働者1人当りの年間平均残業時間は47.2時間(※1)。一方、日本の月平均残業時間は、47時間(※2)。
 
ドイツ人が1年間で47時間しか残業をしない理由を4つご紹介します。
 

 

理由1:法律を守るから

1つ目の理由は、「法律を守るから」。
 
ドイツでは法律で「1日の労働時間は10時間まで。1週間の労働時間は60時間を超えてはいけない。」と定められています。
 
日本では、法律は机上の空論と考えている人が多いのではないでしょうか。しかし、ドイツでは皆、法律を守ります。第二次世界大戦の教訓から、人間の尊厳を明記した憲法を守る義務が憲法で国民に課せられているのです。国が正しい道を進むために、皆でしっかり憲法を守ろうと努力しているように日本人である筆者には感じられます。
 
時代の変化とともに、法律と現実の間にズレが生じてくる場合は、法律を改正します。ドイツは1949年に制定した憲法を、これまでに59回改正しています。
 
そして、ドイツの多様性も法律を守ることにつながっています。ドイツの人口の20%は外国人。宗教もカトリック30%、プロテスタント30%、イスラム教5%と様々です。
 
沢山の民族が同居しているため、口に出さなくても分かるような共通の価値観や以心伝心という考えは存在しません。国民の尊厳や自由を守る唯一の手段が憲法であり、法律なのです。ドイツで人々が法律を守らなくなったら、この国はバラバラになってしまうでしょう。
 

理由2:残業手当は期待しない

そもそも、ドイツ人は残業するという概念がありません。契約書に書かれている時間だけ仕事をするのです。残業は、勤勉さや企業への忠誠心の指標ではありません。
 
それでも残業時間が発生すると、通常はフレックスタイムを利用して残業時間分を休みにします。残業手当が発生するとは限らないからです。この選択は、上司や雇用主との話合いで決められます。
 
残業手当が目的で残業するという考えはドイツにはありません。
 

理由3:法律違反をすると上限180万円の罰金

労働時間において法律違反が認められた場合は、上限15000ユーロ(約180万円)の罰金が企業側に課されます 。違反が繰り返される場合は、雇用主および人事課、被雇用者の上司である課長や部長は1年間の懲役 刑の対象 になります。
 
労働時間は、会社ごとではなく労働組合によって厳格に管理されています。労働組合は、業界ごとに大きな枠組みがあります。金属工業、サービス業連合、建設農業環境、食品飲食店、鉄道交通、教育科学、警察組合などです。労使交渉も労働組合ごとに行われます。
 
殆どの大企業は労働組合に加入しており、会社で不当な扱いを受けたと感じる被雇用者は、代表組合員に相談できる仕組みになっています。長時間勤務を好ましいと考える空気はありません。上司の重要な役割は、部下の勤務時間管理及び、有給取得管理です。
 
一方、労働組合に加入しておらず、相談できる組合員もいない中小企業も多くあります。労働組合への加入は、社長の裁量。ドイツにも、ワンマン経営の企業や、労働時間管理がいい加減な企業、契約労働時間以上の労働を上司が期待するという中小企業が存在します。
 

理由4:法律に従うといいことがある

法律は人々の生活をよくするもの。法律に従うといいことがあります。以下は、その例です。
 
・ドイツの法律で定める有給休暇日数は、24日。平均有給休暇取得日数は、30日。国民の休日は年10日で、計40日が休み。これはヨーロッパ最長です。
 
・2007年に導入された両親手当(ELTERNGELD)。育児休暇をとる一方の親に、最長で12ヶ月支払われます。両親ともに育児休暇をとる場合は、更に支給期間を 2ヶ月延長することができます。
 
支給金額は、両親手当を受ける親の最近12ヶ月の平均純所得の65%。上限は月額1800ユーロ。所得が無い親にも月300ユーロ支給されます。2011年には、この制度を取得可能な父親の25%が育児休暇をとり、両親手当を取得しました。その内の75%は2ヶ月間の育児休暇期間を取りました。12ヶ月間の育児休暇をとった男性も7%います。
 

理想的な法律をつくり、今、理想的な社会をつくる

 
ドイツ経済紙「ハンデルスプラット(Handelsblatt)」2016年12月8日付の記事によると、85%のドイツ人が自分の仕事に満足していると答えています。日本も、労働条件における「建前(法律)と現実の違い」を是正すべき時期を迎えています。
 
筆者はドイツに来てから14年になりますが、家族として生活していく上で一番満足しているのはドイツの労働条件です。人として、家族を持つ親として、満足できるような生活が法律で保証され、実行されているのです。多くのドイツ人にとっては、2,3年等の短期間であれば経験やキャリアのために他の国で働くことも魅力です。しかし、一生、長期間ではありません。。自国の労働条件が良好だからです。その結果優秀な人材が国に残り、他国からも人が集まってきます。
 
「法律を皆で守る」。そうすれば、新しい道が見えてくるのではないでしょうか。
 
出典 
(※1) 独報道メディア「WeltN24」2014年9月8日付記事
(※2) Vorkers調査「平均残業時間(月間)別の回答者割合
 
文:クリューガー量子(ハイデルベルク市公認ガイド)
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