オペラの本場と言えば何と言ってもイタリア。数多くの名作イタリア・オペラに魅せられて、イタリアへの留学を目指す若手音楽家は日本をはじめ世界各国に多くいます。
ですが、近年の政治・経済的不安のあおりを受けて、イタリア国内では職業音楽家として生きていくことは年々厳しくなってきています。この記事では、そんなリアルなイタリアの現状の中で、プロのオペラ歌手として働く人たちの実態を解説したいと思います。
イタリアにある歌劇場の基本的な契約形態
イタリアの歌劇場では基本的に、オペラ歌手の長期契約というものがありません。演目に合わせてその都度、役に適した歌手を客演として呼び集めて公演を行うのが、古くから続くイタリアの歌劇場の運営の基本スタイルです。
イタリアで最も有名なミラノ・スカラ座も若手育成のためのアカデミーは有しているものの、本公演の主役を担う歌手はみんなその公演の期間のみの短期契約です。
つまり、イタリアでオペラ歌手として生活していくためには、フリーランスとして短期契約を取り付け続け、あちこちの劇場を飛び回って歌うことになります。
エージェントを通して働くオペラ歌手
イタリアで働く多くのオペラ歌手たちは、エージェントを通して仕事を得ています。多数の歌劇場と太いパイプがあるような力のあるエージェントであれば、コンスタントに仕事を斡旋してもらうことも可能です。
ただし、最初の数年は順調に仕事をしても、一度調子を崩してしまったり、レパートリーの変更を図った途端にぱったりと仕事を割り振ってもらえなくなった・・・なんて話も珍しくはないので、やはりリスクは常に付いて回ります。
そして、イタリアのエージェントは「イタリア人歌手」という、ある意味高く売れるブランド品である歌手を海外の劇場に売り込むのも大事な仕事としています。イタリアで生まれ育ってイタリア・オペラを歌うイタリア人と比較すると、日本人はじめ外国人は圧倒的に不利になることは言うまでもありません。
エージェント無しで働くオペラ歌手
エージェント無しで、自ら構築した人脈を駆使して働くオペラ歌手も少なからず存在します。おのずと出演することができる公演の規模は小さくなってしまいますが、実力と出演後の評判が高ければ、ある程度の量の仕事を得ることが可能です。
しっかりした後ろ盾がない分、もちろん保障もありません。若手歌手は毎年何人も育ってきますから、歳とともに徐々に仕事が減っていくことも十分にあり得ます。
エージェントがついていてもいなくても、年に数回の舞台を踏みながら普段は音楽教師や全く違う副業をして生計を立てている人も多くいます。一度華々しくキャリアに乗ったように見えても、そこから先何年もずっと上手く仕事が続けられる確率は、今のイタリアではとても低いのが現状です。
イタリアでの音楽留学を検討されている方は、歳を取ってから途方にくれないためにも、憧れを追いかけるだけではなく現実・現状をしっかり見据えることが大切です。留学期間をどのように将来設計につなげていくのかも考えながら、実りある時間を過ごせるようにしましょう。