日本はもとより、周辺のヨーロッパ諸国と比べてもずっと「舞台に立って生計を立てる」ことが現実的なドイツですが、もちろんリスクも存在します。
ドイツには数多く国公立の劇場やオペラ座があります。人口10万人程度の小都市にも市立劇場が存在するのが一般的で、7月から8月にかけての夏休みを除いて一年中さまざまな公演が催されています。そんな劇場およびオペラ座は、年単位の長期契約で音楽家やダンサー、役者などのアーティストを雇い入れています。
この記事では、劇場所属のアーティストがしばしば直面する大問題、劇場総監督の交代について説明します。
劇場総監督の任期と交代
ドイツの劇場総監督の契約は通常5年の任期で締結されます。任期を満了して劇場を変わる人もいれば、更新して更に5年、同じ劇場で尽力する人もいます。
劇場の最高責任者である総監督の交代は、その劇場に従事する全ての人々にとって一大事です。数多くの雇用者が、通常8月半ばに設定されている締め切りに、契約の満了を迎え次第職を失います。
契約更新される雇用者
総監督はじめ指揮者など、指導者のポジションを担う人々が変わっても雇用を保障されているのは、オーケストラと合唱のメンバー、そして舞台装置などを扱う技術者です。
彼らは基本的に終身雇用扱いなので、上層部の入れ替わりも怖くありません。
契約更新されない可能性が高い雇用者
一方、上層部の入れ替わりに大打撃を受けるのは、一般的に「ソロ契約」と呼ばれる雇用形態で働いているアーティストたちです。ソロ歌手、ダンサー、役者、指揮者などがこのカテゴリーに分類されます。
通常ドイツの劇場で総監督が交代する際には、一部の例外を除いて90パーセントほどのソロ契約アーティストが解雇されます。
解雇を免れるのは、同じ劇場に14年以上の勤務歴がある人と、特に高く仕事内容を評価された一部の人間だけです。
契約を打ち切られる場合のおおまかな流れ
劇場総監督の交代は2年前など、充分早めに知らされます。その後、交代が行われる前の年の10月14日までに、契約打ち切りの候補になる雇用者たちが、新しく来る総監督から手紙を受け取ります。
手紙の内容は、契約終了に伴う面接への招待。ソロ契約で従事している人々は、この10月14日まで関係者入り口を出入りする度に、門番から手紙を渡されないかドキドキしながら過ごすことになります。
契約解除の候補者たちにはオーディションの機会が与えられる場合もあります。そこで充分な実力を示すことができれば、新政権のもとで新たなシーズンをスタートさせることも可能です。
このように、ソロ契約は保障がなく不安定なうえ、オーケストラや合唱のメンバーと比べてお給料の平均が低いなど、「安定」とは残念ながら程遠い雇用形態です。それでも自分の夢の実現のため、観客を楽しませるために情熱を持って日夜努力を続けるアーティストたちは、公演で浴びる拍手とお客様の笑顔を糧に舞台に立っています。