留学すれば簡単に現地の友達ができ、語学力向上につながるのか。~篠崎久里子(フランス大学院日本語講師)

語学力向上には留学することが最適な方法の1つと言われている。それは現地に行けば、その国の言葉を話す機会が多く、その国の言葉に触れる機会が多いということが一番の理由であろう。言語学者キャンベル〈Cambell 2011) は、学習言語を話す国での滞在期間は言語力的にも社会言語力的にも文化理解力にも比例して向上すると述べている。もちろん、現地の学生との交流も、留学の重要な点の1つであり、留学と語学向上関係していると言える。
 
しかし、実際に海外留学をした場合、現地の友達を作り、友好関係を築くのは誰でも簡単にできることなのだろうか?
 

 

日本滞在留学生の日本人学生との友好関係

先ほどのキャンベルは外国人日本語学習者の日本留学期間中の日本語ネイティブスピーカーとの交流に関する研究を行った。キャンベルの調査の対象は英語ネイティブのオーストラリア人であったが、日本に留学した時には日本人学生の友達を作る事は簡単ではなかったようだ。つまり、現地に行ったからと言って、そう簡単に現地の友達ができるとは言えないのかもしれない。
 

フランス滞在外国人留学生の現地学生との友好関係

同様の現象は、ここフランスでも見受けられる。筆者の修士課程の研究では、学部構成の都合上、フランスで英語の授業を受ける外国人留学生がいる。彼らのコースは特殊なコースで、2年間の間、フランス、ドイツ、スイスで授業を受けるため、授業での教授言語は英語で、フランス語のレベルが問われることなく入学できる学部であった。彼らのうちフランス語初心者、初級者の学生は現地のフランス人ネイティブの友人を作る事に困難を示している。
 
彼らがフランス語に触れる機会は、1週間に1度。放課後の課外活動のように開講されるクラスのみだった。通常は留学生クラスメートと一緒にいる事が多く、日常生活も英語で過ごす。フランス人の友人を作る機会もなく、フランス語を話す機会も少ない。
 
また、彼らの中には言語の勉強ができるようにと、フランス人とシェアハウスをした者もいた。、ハウスメイトとの会話はフランス語で試みたものの、あまり会話が続けられないため仲良くなるのが困難だったと述べている。
 
このコースの留学生たちの目的は学位であり、言語学習や現地の人との交流などは最重要項目でなかったことも確かである。それでもフランスに住んでいる以上、彼らにもある程度フランス語学習の意欲はあったものの、環境的にそれが難しかったと言える。
 

フランス滞在日本人留学生の現地学生との友好関係

筆者は今回フランスに滞在中の5人の異なる環境の日本人留学生5人にインタビューをした。インタビューでは、留学時、留学1ヶ月後、留学3ヵ月後に、彼らの友好関係とフランス語学習についての話を聞いた。このうち2名は、先ほどの外国人学生のように、ある特殊なアメリカ大学が運営しているコースを受講し、フランスにいながらクラスの大半が英語での授業を受けていた学生だった。
 

学生紹介

それでは、今回参加してくれた学生5名のプロフィールをご紹介しよう。
 
Aさん〈女性〉
企業から派遣されて留学していた学生、。大学の学部に留学。自分でアパートを借りて一人暮らし。元々「英語のほうが得意」。
 
Bさん<女性>
Aさんと同じ企業から派遣。自分でアパートを借りて一人暮らし。大学ではフランス語専攻。
  
Cさん<女性>
アメリカの大学が主催する特別コース(授業はほぼ全て英語。学生は日本人2名およびアメリカ人かカナダ人)に参加。寮もクラスメートと一緒だったので、寮の中でも英語環境。「大学の第二外国語でフランス語を勉強」してきており、「英語のほうがフランス語よりも得意」
 
Dさん<女性>
Cさんと同じ。
 
E君<男性>
交換留学生。大学の学部に留学。学生寮に住む。高校生の頃にも1年間フランスの高校に留学経験があるため既にフランスの生活にも慣れており、今回の留学前からフランス語もある程度できる状況。
 
すなわち、今回インタビューした5人は、
 
1.フランスでフランス人学生と一緒にフランス語で勉強する環境、一人暮らし〈Aさん〉
2. 学校が始まっていないので、フランス人学生との交流する場にまだ属しておらず、一人暮らし〈Bさん〉
3.フランスで英語ネイティブ学生と一緒に英語で勉強する環境、クラスメートと寮暮らし〈Cさん、Dさん〉
フランスでフランス人学生と一緒にフランス語で勉強する環境、学生寮暮らし〈E君〉
 
という異なる環境の学生だったことになる。彼女たちはどんな風に現地の友達を作り、フランス語の学習につなげてきたのだろうか。
 
インタビューの結果、4人の女子留学生はフランス到着後、又滞在1ヶ月後も現地のフランス人の友達を作るのに苦労しているとのことだった。フランス語を毎日話す環境と言うわけでもなく、最初の頃は日本人の友人を作るほうが「簡単だった」と答えている学生もいた。
 
到着時の友人の数を聞くと、4名の女子留学生は「0人」と答え、E君だけが「8名」と答た。彼は学校の授業の後なども現地学生と一緒にランチを食べに行ったりしていたようだ。彼は又、「日本に興味のあるフランス人学生と友達になること」はある程度簡単だったと言い、「日本人同士の友達作りも簡単だった。」と答えている。
 
Aさんは学部に入っていたが、最初は友達を作るのは大変だったようだ。昔していたバスケットボールのクラブに参加するようになってから、フランス人の友人もできてきた。
 
Bさんはコースの関係で授業の開始時期が他のみんなよりも遅かったこともあり、フランス到着後数ヶ月はどこの学校にも所属しておらず「知り合いを作るのが難しい」と回答した。やはり学校やクラブなど人に会う場所に属さないと友達を作るのも難しいと言えそうだ。
 
英語環境にいたCさんは、友達の数そのものは多くなかったが「中国系カナダ人のクラスメートの友達ができ、ずっと彼女と遊んでいたし、ご飯のときなども一緒にいた。」と答えた。Cさんの回答からは友達は数ではなく、その親密さによっても変わることが分かる。しかしながら、もちろん彼女は英語環境にいたので、ずっと英語で過ごしていた。その後、フランス人の語学エクスチェンジをするフランス人日本語専攻の学生と友達になり、「週に3時間ほどフランス人の友達と過ごす」ようになったのだが、通常は「日本語を話している」と言う。筆者はその語学エクスチェンジ相手も知っていたのだが、彼女の日本語の方がずっと向上している気がした。
 
Cさんと同じコースにいたDさんも、友達はできたが「フランス人の友達を作るのは難しい」と言い、滞在3ヵ月後も「友達はできたが、基本的に英語で話をしている。」と答えている。
 
皆が同じように現地の友達を作るのが難しいというわけではなかったが、フランス到着当時は自分のソーシャルネットワーキングを1から作っていかなければいけないということもあり、それが大変だったようだ。友好関係構築は、最初のフランス語のレベルにも関連していると推測される結果も出ており、留学当初からある程度フランス語ができた留学生のほうが、現地の友達を作りやすいという結果になった。
 
留学したときは生活そのものを1から構築していかなければいけない。そういう意味でも留学期間が長いほうが、生活そのものも構築でき、時が経つにつれ現地の友達も作りやすくなるのかもしれない。
 
また、言葉の問題もあり、日本人同士が仲良くなりやすいという傾向も見られた。海外で日本人の友達がいることもやはり心強い事だが、現地の友達を作るようにするにはやはりそれなりの努力が必要だということだ。
 

現地学生との交流や言語力向上は環境による

留学した際にある程度の語学力がないと現地の友達を作るということは難しいという事が調査では分かる。留学前にあまり言語の勉強をせず留学する学生も少なくないが、やはり『語学は現地に行ってから。』ではなく、ある程度のレベルまでは自国で勉強し、留学の特権でもある現地の人との交流が有効的にできるようにしておく方が効果的な留学ができるのではないか。
 
留学の有効的効果として現地の人との交流、そして現地の言語に触れる機会が多いという側面がある一方、その状況を手に入れるのは一概には簡単ではないと言えるかもしれない。留学する本人の環境にもより、現地の友達を作るにはそれなりの努力も必要なのだ。又、日本語や日本文化に興味のある現地の学生を見つけることができれば、友達作りも楽になると言えるだろう。
 
参考文献
Campbell, R. (2011). “The impact of study abroad on Japanese language learners` social networks. New voices,” The Japan Foundation, 5, 25-63.
Komatsu K(2014) ’Apprentissage informel de la langue française pour étudiants étrangers poursuivant un Master en Neurosciences à l’Université de Strasbourg’ le mémoire de UNIVERSITÉ DE STRASBOURG Département de Didactique des Langues/FLES Master 2 FLES-FLS-FLI Sous la direction de Monsieur le Professeur Laurent Masegeta B.M. KASHEMA
 
文:篠崎久里子(フランス大学院日本語講師)
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