デンマークの公用語はデンマーク語。そしてデンマークでは、子供から大人まで多くの人がデンマーク語のほかに英語を話すことができます。その実力は、英語能力指数調査で世界88 カ国中5位にランクイン(2018年度)するほど(※調査元:イー・エフ・エデュケーション・ファースト)。
そんな英語運用能力の高いデンマーク。いったいどのような英語教育を行ったらこんなに高い英語能力が培われるのでしょうか?
筆者は、市内の小学校で行われている実際の授業を視察する機会を得ました。この視察から見えてきたのは、徹底的にコミュニケーション力に重きを置いた授業や、生徒が受け身でなく主体として英語と関わるスタイル。2020年からの英語教育改革を目前にした日本にとっても注目したいことを多く目にしました。
本記事では、デンマークの小学校英語教育についてレポートします。
▼玄関ではカラフルなアートがお出迎え。
「主体は生徒」が大原則。
今回訪問したのはデンマークの初等中等教育機関フォルケスコーレ(Folkeskole)。フォルケスコーレは、就学前クラスに当たる0年生、初等中等部に当たる1年生から9年生、さらにもう1年任意で選択可能な10年生で構成されています。
英語教育は1年生 (7~8歳)より始まります。英語教育初年度ならばテキストや教材を使ってのインプットがメインなのかと思いきや、筆者が見学した授業では1年生にして早くも「生徒主体」によるアウトプットが実践されており、驚かされることになりました。
この日の授業で行われていたのは「好きな食べ物を英語で紹介する」という課題。自分の好きな食べ物を絵に描き、クラスメートに紹介するといいます。
▼好きな食べ物を絵に描いて、クラスのみんなに英語で紹介。
「英語を使って自分を表現する」ということにチャレンジしています。
次に訪問したのは6年生(12~13歳)のクラス。こちらでも生徒主体の授業スタイルが行われていました。
授業が開始するやいなや、生徒らは教室を飛び出し裏庭へ。始まったのは「スクラブル」というボキャブラリーゲームです。
▼スクラブル(Scrabble)はアメリカ発祥の単語を作成して得点を競うゲーム。
チームに分かれ、中央に置かれたアルファベットカードを取り合います。それらのカードを並べ、より多くの英単語を作ることのできたチームが勝ちというルール。生徒達自身が身体を動かし、考えながら英単語を覚えるという生徒主体の方法です。
▼できるだけたくさんの英単語を作れたチームが勝ち。
ゴールは「英語を使ってコミュニケーションできること」
担当教員は次のように話していました。
「英語学習のゴールは学校の授業だけで『英語を使ってコミュニケーションがはかれるようになること』です。そのため、授業ではプレゼンテーションやディスカッションを通して、生徒がたくさん英語を使える機会を設けるようにしています。」
この方針を体現しているのが、1年生にして「好きな食べ物を英語で表現する」という授業です。
▼1年生の教室には体の部位を示した絵が展示されています。
『英語を使ってコミュニケーションがはかれるようになること』。このビジョンは授業だけでなく評価方法にも現れています。最終学年におけるナショナルテストでは、あるテーマについて英語でプレゼンテーションをするといった口頭試験が行われています。
教員が生徒達にとってベストだと思う方法を実践。
デンマークでは、全国の生徒が同じ内容を学ぶ訳ではありません。教員が生徒達にとってベストだと思う方法を実践しています。
これは英語教育だけではなく、デンマークの教育全般に見られる特徴。細やかなカリキュラムが一律に決められているのではなく、各教科で大まかな学習目標が定められており、教員はそれに従い授業をデザインしていきます。
この「柔軟性のあるカリキュラム」がクリエイティブな指導法を生み出すきっかけになっているとも考えられます。
担当教員はこう話します。
「近年は移民の子供も増え、生徒の家庭環境やバッググラウンドが以前にもまして多様化しています。英語のレベルも生徒によって違うので、一人ひとりのレベルをしっかり把握することが大切だと思います。」
デンマークでは1クラスの生徒数が28人以下と定められており、大半の学校が1クラス20人前後という少人数体制をとっています。その為、教員は生徒一人ひとりに目を配ることができ、柔軟性のあるカリキュラムを実践しやすい土壌にもなっています。
▼教室の前に飾られている生徒らの作品。
▼紙風船が吊るされているのは図書室。
▼校内にはカラフルなアートが描かれている。
▼自習スペースはおしゃれカフェさながら。
今回、たった一日の視察ではあったものの、デンマークの人たちがなぜあんなに英語が話せるのか、その理由の一端を見ることができました。
幼いころから英語を使って表現し、受け身の授業ではなく自ら授業に参加すること。ときには教室を飛び出し、体を使い、遊びのなかから自然に英語に親しんでいくこと。そして、そんな柔軟な授業スタイルを可能にするデンマークの「教育」そのものに対する考え方。
日本ではますます英語の需要が高まっています。2020年の教育改革を前に、生徒主体の形式を取り入れたデンマークの授業方法もひとつのヒントになるのではないでしょうか。
※参考
イー・エフ・エデュケーション・ファースト・ジャパン株式会社
https://www.efjapan.co.jp/epi/%E3%80%80/
デンマーク教育省
http://eng.uvm.dk/