舞台関連の仕事に携わる際には、業界内でのみ通用する常識や、事前に知っておかないと仕事仲間に不快な思いをさせることにもなりかねないものもあります。イタリアには、その他諸外国同様、日本とは全く異なる常識や風習があります。この記事では、そんなイタリアでオペラの舞台に携わる際に役に立つ基礎知識を解説します。
▼ベルガモのガエターノ・ドニゼッティ劇場
1.押さえておきたい用語
・prova italiana
演出稽古ではなく、全員参加の音楽稽古のことです。オーケストラ、合唱、ソリストが演奏会のようなスタイルで並んで、音楽だけのリハーサルを行います。
・filata
最初から最後まで通すことをfilataと言います。
・外来語
日本同様イタリアでも、多くの外来語が日常的に使われています。オペラ関係のワードの中にも数多くの外来語があります。ただし、イタリア人は英単語を発音する際にスペルをそのままローマ字読みするので、発音が原語とは異なります。それを知らないと知っている単語でも聞き取れない可能性があるので注意が必要です。
例えばCOVERは「カバー」ではなく「コーヴェル」、CASTは「キャスト」ではなく「カスト」と読みます。
その他に、フランス語由来の「Cachet(カシェ)」などが「ギャラ」の意味で頻繁に使われます。
2.ゲン担ぎ
イタリア人は比較的、ゲン担ぎなどの習慣を重んじる人種です。オペラの舞台はいつでも一発勝負ですから、なおさら縁起の良いものと悪いものの区別が重要視されます。
・紫色
まず、イタリアの舞台関係者は紫を敬遠します。舞台上では不吉な色とされているので、稽古などの際にも紫はご法度です。服装や持ち物に注意しましょう。中にはまったく気にしない人もいますが、嫌がる人の方が大多数なので、避けた方が賢明です。
・縁起のいい言葉
幸運を呼ぶおまじないとして、少々汚い言葉も使われます。「排泄物」という意味の単語「Merda」と言われてもびっくりしないように心構えをしておきましょう。通常この単語が3回繰り返されます。
・幸運を呼ぶジェスチャー
出演者に向けて「頑張って」や「健闘を祈る」の意味で使われるポーズに、人差し指と中指をクロスするというものがあります。こちらはイタリアだけではなく英語圏などでも浸透しているのでご存知の方も多いでしょう。
3.公演前の挨拶
イタリア特有の舞台前の挨拶は「in bocca al lupo!」と言います。直訳をすると「オオカミの口の中へ」という意味になります。返事は「Crepi il lupo!」もしくは省略形の「Crepi!」で返しましょう。
ヨーロッパの他の国でも使われている 「toi toi toi」も通じます。いずれの場合も「ありがとう」と答えてしまわないように注意が必要です。お礼を言ってしまうのは縁起が悪いとされています。
▼ジェノヴァのカルロ・フェリーチェ劇場入口
ここまでご紹介してきたように、国が違えば常識も違います。「外国人なのだから知らなくても仕方がない」と大目に見てもらえるのも確かですが、外国で仕事をする決意をした以上こちらが合わせるのが当然のこと。その国の風習をリスペクトして、同僚たちとも気持ちよく仕事ができるように心がける姿勢が大切です。