ヨーロッパに音楽留学に来る日本人の大多数は、日本国内で四年制大学を卒業した後で留学を決意します。留学のための資金を貯めるために数年間働いたり、奨学金の審査に通るまでに時間がかかったりするケースも珍しくありません。
そのため、留学が決まった時点で20代半ばから30歳前後の年齢になっている人が大半です。そのような背景から、日本人留学生にとって気になってくるのが、ヨーロッパにおける各種年齢制限です。
この記事では、イタリア、フランス、ドイツを中心としたヨーロッパにおける、若手オペラ歌手のために設定されている各種の年齢制限をタイプ別に解説します。
▼ウィーン歌劇場正面玄関
コンクール
ベルベデーレやディ・シュティンメのように、国際的に有名な大規模の声楽コンクールでは、参加者の年齢制限は通常30歳前後に設定されています。「女性28歳、男性30歳まで」というように、男女で設定が異なることもよくあります。
一方、大小様々なコンクールが多数開催されているイタリアでは、年齢制限がかなり高めのものも多くあります。40歳まで、というケースも珍しくありません。
エージェント
公にオーディションで歌手を募るエージェントはあまりないことから、公式に発表されている年齢制限というものはありません。
とはいえ、エージェントを探す場合には30歳が大きな壁となります。
年齢を重ねていても、それまでに積み重ねたキャリアがあればマネージメント契約を結ぶことは可能ですが、ヨーロッパでの実績がない新人としてエージェントを探す場合は、29歳あたりから状況がかなり厳しくなってきます。
各種オーディション
オペラ研修所などの若手歌手の育成を目的としたシステムの場合は、28歳が年齢制限になっているところが多くなります。男性は30歳までというケースもよく見受けられます。
イタリアやフランスでよく見られる、私立の団体企画の小規模オペラ・プロジェクトのためのオーディションは、年齢制限がないことも珍しくありません。歌唱技術さえ評価してもらえれば、年齢や経歴と関係なく合格することができます。
ドイツの歌劇場所属の歌手になるためのオーディションは通常、エージェントや内部関係者を通さなければ応募することができません。そのため、公に年齢制限が発表されることはありませんが、一般的には小さな劇場では30歳未満の若手歌手、大きな劇場では30代以上でも経験値の高い実力のある歌手を雇用する傾向があります。
▼リエージュのオペラ座内部
日本人留学生の中には、ヨーロッパに渡ってから大きく発声方法を改良したり、声種を変更することになる人が多くいます。そのようにしてヨーロッパ流の歌い方を身につけてから活躍の場を探し始めると、どうしてもヨーロッパ人の若手歌手たちと比べて年齢が上になってしまいます。
外国人であるというハンデに加えて、年齢制限の壁も迫ってくることを頭の片隅において、留学とその後の進路については計画性を持って考えることが大切といえるでしょう。