→アメリカの音大ってこんなところ!【入試編】
→アメリカの音大ってこんなところ!【カリキュラム編 その1】
前回は大学側での一般教育コースについて書いたが、今回はいよいよ音大側からの履修コースについて書こうと思う。
\海外音大に興味が湧いたら/
音大からもこんなにある!履修コース
音大の履修コースは主なもので次のとおり。(※弦楽奏者で演奏を専攻している場合)
個人レッスン(Studio)
これが一番の要で、バイオリン演奏が専攻の生徒は皆、同じ先生の”Studio”に属することになる。指練習の本、技術の本、あとはメインの曲、といつも3冊くらいを持っていっていた。進度により、伴奏者が必要なときもあり、それも生徒が手配し、レッスン外で合わせておかなくてはならない。
音楽史
その名のとおり、音楽の歴史。特に西洋音楽の歴史だ。このコースはライティングも入っていたのでセメスターごとにいつも泣きそうだった。(ライティングに関しては【カリキュラム編 その1】を参照。)
楽典
西洋音楽がどのように作られているか。この知識を極めれば簡単な譜面を書くことなどわけない。調が変わっても曲のスタイルが変わっても伴奏パートを作ることも可能だ。このコースは、特に英語にまだ慣れていなかった最初の2年間は辛かった。ライティングも含まれていたので、今思うとパスできたのは奇跡だと思う。
Sight Singing(視唱法)
Ear trainingとも呼ばれるこのコースは、楽器がなくても譜面を見ただけでどんな音楽かがわかるようになるもの。また、音楽を聴いて譜面に起こすこともできるようになる。期末試験は実際に聞き取って書いたり、先生の前で歌ったりするものだった。短かめのライティング課題もあったと記憶している。
ピアノ
簡単な伴奏ができるようになることを目的としていた。コードを元にした伴奏譜をつくることもできるようになる。
チェロとビオラ
自分の専門が弦楽器の場合、1年間は別の弦楽器のレッスンを受けなくてはならない。なぜかバイオリン奏者はチェロをやらされたが、途中から方針が変わり、私の2セメスター目はビオラになった。これで、アンサンブルなどの際に、バイオリンパートだけでなく、ビオラパートも引き受けることが可能だということになる。
Big ensemble
音大生は必ず年間1つは入らなくてはならなかった。コンサートがセメスターごとにあり、バイオリンの場合はシンフォニー(オーケストラ)しかなかったが、金管楽器などの場合は、吹奏楽やマーチングバンドなど選択肢の幅がある。定期コンサート以外にも、チャリティーオークションやヨーロッパでの音楽祭、大学の記念祭などに駆り出された。
Photo from Flickr “from the back row of the Bates Recital Hall” by glg61
Small ensemble
トリオやカルテットなど、後半2年間は入ることが必須だったと思う。期末に発表があった。
String orchestra
その名の通り、バイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスと弦楽器のみのオーケストラ。全員が立って弾くスタイルで、見慣れない人もいるかもしれない。弦楽器の生徒は、こちらも後半2年間、入ることが必須だった。こちらは個人レッスンの教授が指揮をとるクラスでいつも緊張感に満ちたものだった。セメスターごとにコンサートあり。
Orchestration
さまざまな譜面をオーケストラ用に書き換えるというもので、最終的には楽譜を全パート分作り、実際に大学のオケに引いてもらう、というものだ。
今は楽譜を書くソフトウェアもかなりあるだろうが、当時はまだ新しく、すべて手書きの生徒も珍しくなかった。
楽器によって音域が違ったり、弾きづらい調もあったりで、そういうものを隈なくチェックするのは、初めてオーケストラの譜面を書く者にとっては至難の業だ。
しかもオーケストラメンバーは決して優しくない(苦笑)。
すぐに「これ無理」とか「こんな音ありませーん」とか「は?何これ?」など、容赦ないコメントが飛んだ。
やはりみんな自分の楽器に対する思いは特別なもの。そのパートに決定的なミスがある、というのは許しがたかったようだ。
指揮
音大出身者では卒業後、高校などのバンドの先生になる人も多かったので、指揮はかかせない。どの様な指示出しをするのかや、テンポやリズムが変わる時はどうするのか、などを教わった。
Photo from Flickr “DSC_0942.JPG” by Chris Devers
演奏がメインのコースの場合、授業中に練習をさせてくれるわけではない。そうすると、もちろん自分の時間を使って練習をして行かなくてはならないので、授業のない時は音大の練習室にこもりきり、という時も多かった。
昼間に時間が取れないと夜中過ぎまで練習室にいることもあった。
その他の演奏活動
古典楽器
バッハよりも前の教会音楽を中心にビオラ・ダ・ガンバという楽器をやっていた期間がある。ガンバという楽器も学内に4つくらいしかなく、おそらく音楽史の教授から声をかけられて有志でやっていたのだろう。コンサートも2度ほどあったと記憶している。
Photo from Flickr “Woman Playing the Viola da Gamba (1663)” by Carlos Villarreal
ほかにも声をかけられた場合は、夏の野外でのパーク・コンサートや音大にあるオペラグループのためのオーケストラをやったこともあったし、シアター学部の方のオーケストラをやっていた学生もいた。
学校以外でも教会や結婚式、またバンドを組んでレストランに演奏しに行っていたこともあった。
今になって思うこと。ConservatoryかUniversityか。
音楽留学の話になると、Conservatory(音楽院)とUniversity(大学)のどちらがいいのか、という質問をされることがある。実際に私が行ったのはUniversityの方なので、Conservatoryがどうの、ということはできないが、Universityなら、ほかの専攻の学生とも知り合うことができるし、前に述べたように「音楽+ビジネス」、「音楽+IT」など、卒業後に音楽家としても役立つだろうスキルを身につけることが可能だ。
そうすると、仮に音楽以外の仕事に就くことになった場合にも、ほかの大卒者にも引けを取らずに互角に戦えるのがUniversityの音大生なのではないかと思う。
いわゆる「アメリカの大学」のイメージ
留学生にはテレビやドラマで見るアメリカの大学生活に憧れを抱く人もいるかもしれない。
私の行った大学はまさに海外ドラマや映画で見る総合大学そのもので、フットボールチームやコロッセウムもあり、シーズンごとにものすごい賑わいを見せていた。
フラタニティとソロリティという社交クラブもあったし、大学に隣接しているダウンタウンにはバーやクラブなどもたくさんあり、週末はパーティーで明け方まで大騒ぎ。
Universityには良くも悪くもそういう生活がある。
Photo from Flickr “Flag Lights” by Rick
誰に何を習いたいか、で選べる大学
ただ、音楽をやっている人が絶対に優先するべきなのは、やはり習いたい先生(教授)がそこにいるか、またはその学校が、自分の学びたい音楽分野(演奏なのか、作曲なのか、教育なのか、音楽療法なのか…などなど)に力を入れているかということに尽きるのではないかと思う。
実は私の場合、先生をめぐってはちょっとしたハプニングがあった。
入学時にメールでお世話になったバイオリンの教授は、イーストマン音楽院出身で、ニューヨークのカーネギー・ホールやケネディー・センターなどを始め、ラジオなどでも活躍するバイオリニストだった。
ところが、私が入学したちょうどその年に退任してしまったのだ。
つまり、入学してみたら頼りにしていた教授はおらず、かわりに新任の若い教授が私の担当の教授となったのだ。
普通なら残念に思える状況だが、実はこの「新任の若い教授」はジュリアード音楽院出身で、その後、この音大の主要な音楽プログラムを率いていくバイオリニストだった。
音大では教授も定期的にリサイタルを開いてくれるので、その演奏を見ることができたのはもちろん、教授が招待したプロの演奏者の方々と繋がりを持てたり、ジュリアードでの練習法などをそのまま伝授してもらえたりした環境は贅沢だったと思う。
この教授はエネルギッシュで、レッスンは本当に厳しく、何度も泣かされたが、いつもリサイタルの後、私たち生徒に、「ゲストアーティストだってみんなと同じ人間。それを知ってほしい」と自宅でパーティーを開いてくれるような人だった。
今、すでに楽器を何年も習ってきていて、音楽留学を考えている人がいたら、やっぱり人で大学を選ぶべきだと思う。昔からどこの大学のウェブサイトでも教授・講師陣のプロフィールは見られるはずなので、自分の楽器の教授の経歴を読んでみることをお勧めする。学費の安い州立の大学で、驚くような経歴を持つ人に習うことも可能だ。
また、人同士の繋がりは、あなたの後の人生も変えるかもしれない。私も卒業して既に14年も経っているが、当時学んだことや出会った人達が、いまだに自分の人生に影響を与え続けていると感じている。
もし迷っている人がいたら、勇気を出して一歩外へ踏み出してほしいと思う。
さて、いよいよ次回は最終回、【卒業編】。お楽しみに!
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