今回の『留学生インタビュー/ぜんぜん内向きじゃない日本の若者たち』に登場するのは、南半球ニュージーランドで出会った日本の方たち。現地校に留学中の中学生と高校生のみなさん、語学留学生、専門大学で学んだあと現地で就職しているワイン醸造家、ラグビー留学生のみなさんにお話を聞いてきました。
ニュージーランド高校留学生
ここにはいろんな人がくる。難民も。
日本での高校進学を考えるなか、だんだん「なんか違うな」と思い始め、留学へ舵を切ったと話す高校2年生のAYANOさん(右)と今年でニュージーランドの高校を卒業する高校3年生のRIKOさん(左)。
RIKOさんとAYANOさんが通うのは、ニュージーランドで3番目に古い歴史を持つ女子中学・高校「ネルソン女子中学・高校」です。
彼女たちに会って一番最初に思ったのは、その笑顔がとても自然だということ。筆者は仕事柄、笑顔を作らなければならない状況の女子高生や、一生懸命大人としてふるまわなければならない女子高生に出会うことがあります。でも2人にはまったくそんな無理がない。
そしてとても自立した心を持っている人たちです。若々しい希望にあふれながらも、彼女たちは「女子」ではなく「女性」でした。
ひとつの学校で文化国際交流ができる
(AYANOさん談)
「いろんな国を旅したいと思ってたんです。ここには、ちょうど行きたいな~と思ってた国から来た子がいたりする。ひとつの学校で文化国際交流ができるんですよ。
卒業後のことは決めていませんが、最近、環境問題や食生活のこと、いかにゴミを作らないかといったことに興味が出てきています。そういうことをより深く勉強できる場所を探してみたいと思います。」
(RIKOさん談)
「現在は、ツーリズムやバリスタの資格がとれるホスピタリティのクラスなどもとっています。卒業後は日本の大学に進学して、国際教養や総合グローバル系の学部で学びたい。
これから留学を考える人には、行く前はいくらでも不安はあってむしろ心配なことしかないけれど、意外といったらどうにかなるよ、ということを伝えたいですね。」
16歳のホストブラザーに会って最初に思った。「同い年なのにデカい」
SADATOさんは郁文館高校に籍を置く16歳。インタビューをした時点では、ニュープリマス男子中学・高校に通い始めて3週間というタイミングでした。先生やホストファミリーに暖かく見守られる、人なつこいキャラクターの持ち主です。
「ニュープリマスに着いた日、15歳と16歳のホストブラザーがきて、同い年なのに『でかい』と思いました。
最初のころは友達がいなくてヒマでした。『こりゃ自分からいかなきゃだめだな』と思い、声かけまくって名前言いまくって。それで趣味の空手を活かして『パンチしろ』『キックしろ』と言ってたら名前が売れて行きました(笑)。友達があれから増えたなあ。」
ニュージーランドの高校生はどこの大学かよりも、どんな仕事につくかについて考える
一方、ニュープリマス男子中学・高校にYear10(14~15歳)から在籍し、今年で4年になるというKOSEIさんは、もはやネイティブと変わらないベテラン留学生。クールで大人っぽい雰囲気を持つ知的な高校生です。
日本の高校生と話す機会が少ないから比較は難しいんですけど、と前置きしたうえで、周囲の友人たちのことをこんな風に話してくれました。
「この学校にいると、自分の将来についてすごく考えるようになります。ニュージーランドの人はどこの大学に行くかよりも、どんな仕事につくかについて考えています。高2で消防士の資格がとれたりもします。高2終わったら学校やめる人も多いです。ぼくは今、芸術が好きだからアートをやったり、ダンスをやっています。」
KOSEIさんは、NCEAレベル3(※)の勉強には10月からとりかかるのだとか。KOSEIさんの未来へ向けて、次のステップが始まろうとしています。
(※ NCEAレベル3はニュージーランドの高校教育終了を証明する資格試験。この成績が大学入学時の基準点となる。)
ところで、皆さんはハカ(HAKA)を見たことはあるでしょうか。ラグビーの国際試合前などに見られる先住民マオリの舞で、ラグビー人気が高まっている日本でも多くの人に知られるようになりました。
2人が通うニュープリマス男子中学・高校は文武両道を地で行く伝統校。学校には伝統のハカ(HAKA)があり、ライバル校とのスポーツ試合ではHAKAが火花を散らすこともあるのだとか。地元学生に混じって、2人も勇ましいハカ(HAKA)を披露してくれました。
(動画がこちらの学校レポートにあります。かっこいいですよ!ぜひご覧ください。)
なにかひとつ得意なものを作ったらどうだ、と父が。
海外へ出る年齢というのは人それぞれです。それが10代の人もいれば、60歳代の人もいる。
ウェリントンにある男子中学・高校『スコッツ・カレッジ』には、中学1年生から高校3年生までの日本人留学生が在籍していました。
KAIさん/高2(前列右)「なにかひとつ得意なものを作ったらどうだ、と親に言われて考えました。そして将来にいかせる『英語』を得意にしたいと思いました。」
RYUTAROさん/高2(前列中)「英語を使いたいと思いました。最初はなに言ってるかわからなくて。でも少しずつわかってきました。」
SHIONさん/高1(前列左)「中2でセブ島に語学留学したときに、いろんな人と話せるといいなあと思いました。中3になり『やっぱり行っておこう』と。」
TAKUMICHIさん/高1(後列右)「将来のために英語が必要だと思いました。海外の人の考え方や文化を知りたいです。」
ISSHINさん/中1(後列左)「国際弁護士になりたいです。だから英語がなきゃだめでしょ。」
5人の通うスコッツ・カレッジは、国際バカロレアコースを持つ私立校。日本以外に中国、香港、韓国、シンガポールなど15か国以上から学生が入学し、卒業後はオックスフォード大学、ハーバード大学、プリンストン大学・・・と世界のトップ校への進学者も多い学校です。
赤いストライプの制服に身を包んだ、5人の若き日本人男子たち。彼らの心に芽生えた留学へのキッカケは、これからどんな風に芽吹くのでしょうか。
日本の常識は通用しないけど握手だけで友達になれる楽しさがある
想定していたとおりの留学生活が送れれば、こんなに安心なことはありません。しかし「想定どおり」だけは絶対にありえないのが、留学の真実です。
ニュージーランド北島ニュープリマスの中学・高校『スポッツウッド・カレッジ』に留学中のMIKONOさんは、留学して「自分が変わったな」と思うことの一番は、環境への順応力だそうです。
「わたし、留学して早々にホストファミリーが3回変更になっているんです。すべてホストファミリーの都合で。もう、3軒目のときなんて『また変わったなー』くらいなもんですよ(笑)。命に関わるようなことでさえなければ『なんでも来い!』です。強くなりましたよ。」
同校に留学中のYUINAさんは、言うべきことを勇気を出して言う、という経験を経て、自分が変わったと言います。
「最初の授業に出た日に、なぜだかクラスメートから丸めた紙を投げられたんです。そのときは混乱しちゃって何も言えなかったけど、次の日にこれはちゃんと話そう、と。
前の晩から『なんて言おう、なんて言おう・・・』ってずっと考えました。次の日、思い切って『誰が投げたの?』と話すことができました。ちゃんと相手に言ったっていうのが、自分のなかですごく大きいです。」
YOSUKEさんは「なんでもやってみることが大事。」と話します。「ここでは日本の常識は通用しないけど、握手だけで友達になれる楽しさがあります。」
▼留学生サポートを担当するスポッツウッド・カレッジの学生たちと一緒に。左がYOSUKEさん、左から3人目にMIKONOさん、右から2人目にYUINAさん。
ニュージーランド語学留学生
日本だけに住んでると、日本のことしかわからない。
「ニュージーランドの首都はどこでしょう?」
「オークランド」という回答を期待してひっかけクイズによく使われるこの質問、正解は「ウェリントン」。
ウェリントンでは、高校生たちの少し先輩にあたる世代の語学留学生に会えました。「2020年の東京オリンピック/パラリンピックでスタッフとして関わりたい」と話すMAIさん(写真左)と、「海外の映像技術を勉強したい」と映画産業の盛んなウェリントンを選んだYUTOさん(写真右)です。2人はウェリントン中心部にキャンパスを持つ語学学校『キャンベル・インスティチュート』に通っています。
ハワイに3か月間の滞在経験を持つMAIさんは、当時英語があまり話せなかった悔しさをバネに貯金と勉強を重ねてニュージーランドへやってきたそうです。
「でも、今は英語よりも収穫が大きかったと思っていることがあります。いろんな国籍の人の文化、そして生活習慣に触れられることです。直に話せて、聞ける。それは何にも代えがたいこと。」
この学校には、一度のニュージーランド留学で2~3都市での生活を経験できる『コンボコース(Combo Course)』があります。MAIさんもコンボコースを受講していて、ウェリントンに来る前はクイーンズタウンにいたのだとか。同じニュージーランドの中でも、様々な街での暮らしを経験することで多彩な出会いがあったのかもしれません。
日本にいた頃は、悪い意味で偏見を持っていた
一方、語学を習得したのち進学し、映像技術を磨きたいと考えているYUTOさん。(2017年6月現在、語学学校を修了し、ACG YOOBEE デザイン専門学校に就学して映像やデザインを専攻中。)日本にいたときとまったく考えが変わったことがあるそうです。
「いろんな人、移民に触れるようになってこういう考え方もあるんだな、こういうパーソナリティもあるんだな、って思うようになりました。今振り返ると日本にいた頃は、悪い意味で偏見を持っていました。日本だけに住んでると、日本のことしかわからないです。」
そんな2人のウェリントン生活。ライフスタイルについて尋ねると、選んだ言葉は違うものの、2人の回答にはなんとなく共通するものがありました。
(MAIさん)
「私は自然が好きだから、ここは生活のリズムが合います。東京出身なので勉強とリラックスがあるのがちょうどいいです。」
(YUTOさん)
「ニュージーランドに住んでる人たちの流れが日本人とまったくちがいます。海で一日中本読んでるし、道路脇の芝生にねそべってるし。」
ニュージーランドでワイン留学→現地就職
「ワインなんて全然好きじゃなかった」なぜ今NZのワイナリーに?
「人生はどう転ぶかわからない。」
よく聞く言葉ですが、予想のつかなかった人生を経てきた人たちに実際に会うと、しみじみとその言葉の意味を実感します。
YUICHIさん(写真左)とHIROさん(写真右)は、ニュージーランド有数のワイン産地マールボロ地方で、それぞれ別のワイナリーに勤務するアラサー&アラフォー男性です。広大なぶどう畑に、日に焼けた精悍な姿がよく似合います。
▲インタビューはYUICHIさんが勤務するワイナリー“ALLAN SCOTT Wines and Estates Ltd.” 併設のレストランで。
YUICHIさんはもともと、ワインは全く好きじゃなかったのだとか。それがなぜ今、はるばるニュージーランドのワイナリーで働いているのでしょう。
「美味しいとは思っていませんでしたし・・・ワイン好きな人って『ワインからパッションフルーツのにおいがする』とか言うじゃないですか。何言ってるんだろう、って思ってましたよね(笑)。
最初のきっかけはワーキングホリデーでニュージーランドに来たこと。剪定の季節にアルバイトでぶどう畑で働いているうちに楽しくなって、あるとき、ワーカーたちのスーパーバイザーに抜擢されました。
そこから、だんだん、だんだん、ぶどうのことをより深く知りたいと思うようになり、ネルソン・マルボロ工科大学(NMIT)のワイン醸造学部に入学することにしました。ワインについて学び、テイスティングなどを学ぶうちに『あ、においがするんだ』とだんだん興味が湧いてきました。今はワインが好きですね(笑)。」
▼「ぜんぜん好きじゃなかった」はずのワインを、今やこの笑顔で取材クルーにふるまってくれます。
これでいいのか?人生は。
一方のHIROさんは元々のワイン好き。とは言え、日本にいたころの職業はプログラマーで、企業戦士として働いてきました。良い大学、良い企業、良いポスト。しかし睡眠は日々3時間の厳しい毎日のなか「これでいいのか?人生は。」と考えるようになったそうです。
「35歳で(留学することを)決めて、2年は無収入でやれるように費用を貯め、37歳でこちらへ来ました。自信があったかと問われると、ちょっとわかりません。でも『だめだったら帰ればいい』と、思いきって行動を起こしました。海外経験のある僕の奥さんが『永住権も取れるみたいよ』なんてことも言ってくれて。」
充実しているとはいえ、2人とも学生ではなく、ここで仕事をしています。異国の地で『働く』という難しさはないのでしょうか。
(HIROさん談)
「難しさと言えば、英語ですね。学校ではお金払って教わっているけれど、働くとなればお金もらう立場です。
ここでは来週から収穫期になり、世界中から70人くらいに人を臨時で雇います。僕は彼らのボスという立場ですから『ボスの言ってることがわからない』なんてことでは、言うこと聞いてくれません。最初の1~2年は苦労しました。今はもう苦労していませんけどね。
どう対処したかですか?それは『3倍働く』ってことです。そしたら、悪口を言う連中がいたとしても、味方になってくれる連中もたくさんいる。ぼくの英語と他の人との英語の間で通訳に入ってくれる人もいます。」
(YUICHIさん談)
「仕事は経験でなんとかなります。大事なのはコミュニケーション。なにがなんでも、恥を捨てて説明する姿勢です。ほんとにわかってるのか、とことん追求して話します。」
2人は今の心境について、こう話してくれました。
(YUICHIさん談)
「今一番の興味は畑にあります。いいぶどうを作りたい。なんでもいいから、そのとき目の前にあることを一生懸命やれば、自分でも知らない『何か』に活きると思います。ゆくゆくは畑を中心にしてやっていきたいです。」
(HIROさん談)
「他の人には悪いけど『楽しいことしかしてないよ』って言いたい(笑)。今はシンプルにいいワイン作りたい、それだけです。苦しいことはあるけどやりたいことやってるし、人も好き、この場所も好きですね。」
ニュージーランド・ラグビー留学生
コーチの話を聞く能力は、自分は他国の学生より勝っていると思います。
将来は「日本代表としてプレーできる選手になりたい」と話すのは新潟北越高校2年(インタビュー当時)のMIKIHIROさん。ニュージーランド政府と日本政府がスポーツ教育の発展と交流を目指して設立したラグビー留学プログラム『ゲームオン イングリッシュ(Game On English)』を受講する17歳です。
「ラグビーの強いニュージーランドでラグビーができるということ、英語とラグビーが両方学べることが魅力で2週間参加しました。
当初はレベルの高いことをやるのかなと思ってたけど、実は基本をすごく重視しています。弱点に関してはマンツーマンでの指導もあります。来週の火曜と木曜にはゲームがあります。今はそのゲームに出ることが目標です。」
MIKIHIROさんの話を聞きながら、筆者はだんだん嬉しくなってきたことがありました。彼本来の性格なのか、それとも留学を通して得たことなのかはわからないけれど、MIKIHIROさんには日本人に時々みられる「卑屈さ」みたいなものが全然ないのです。
「地元、そして他国の選手と比べると、日本人は骨格や体格では劣っているけれど、自分はコーチの話を聞く能力は他国の学生より勝っていることも実感しました。」
(自分の良いところをちゃんと知ってる17歳。すてきじゃないか!)
インタビュー当時、2週間の滞在期間のちょうど半分にあたる1週間が経過したところでした。
「1週間で変わったことは、生活面での成長です。自分の食器を自分でかたづけるとか洗濯物をたたんで部屋に片づける。そういう、家にいたら自分ではやらなかったことです。
(留学期間が)2週間しかないから、しっかり練習して、楽しむところは楽しみたいと思っています。これから参加する人も(他の選手たちは)体が大きいし、ケガするかもと思うかもしれないけど、楽しむのがいちばんです。
近い目標としては、来年高3だから花園に出場すること。先の目標としては日本代表としてプレーして活躍したいですね。田中史朗選手や茂野海人選手のレベルまで行きたいです。」
ニュージーランド留学生たちの姿
以上、「ぜんぜん内向きじゃない日本の若者たち【ニュージーランド編】」をお届けしました。今回も気持ちいいくらい、内向きじゃなかったですね!
インタビューに気軽に応じてくれた皆さん、ありがとうございました。そして、また近況を留学プレスまで教えてください。
取材協力:
ニュージーランド大使館 エデュケーション・ニュージーランド
ニュージーランド航空