留学中に差別に遭ったら?ダルビッシュ選手に学ぶ留学生の人種差別対応~若松千枝加(留学プレス編集長・留学ジャーナリスト)

先日、都内の大学生向けに行われる留学のセミナーに講師として呼ばれました。メリットとデメリットをテーマとしたこの日のセミナーでは一部ワークショップ形式を取り入れ、参加者各自にそれぞれでメリットとデメリットを認識しようと試みたのですが、そこで学生たちが発表した「デメリット」として複数人から挙げられたのが「差別に遭遇するかもしれない」という回答でした。


Photo from Flickr 11. Discrimination., John Nakamura Remy

これから海外に出ようとする若者たちが、知らない土地で出会うかもしれない差別について不安に感じるのは当然のことだろうな・・・そんなことを思いながらセミナーを終えた直後、メジャーリーグ・ワールドシリーズ第3戦でダルビッシュ選手に対して行われた差別行動が全米で大きな話題を呼んでいるというニュースが入ってきました。

これから世界に出ていこうとする人たちにとってダルビッシュ選手のとった対応から学べることがあるに違いない。本記事では、差別についての実例を踏まえながら、留学生活のなかで差別をどうとらえるべきかを考えていきます。

差別の実例

現実として、海外留学を経験した人たちの多くが差別を経験しています。そのエピソードはきりがないくらい、バラエティに富んでいますが、ここにそのほんの一例を挙げてみましょう。

・英語でのクラス発表の際、クラスみんなの前で「な~んて・・・言ったの・・・ですかあ~?(What… did… you… say…?)とわざとゆっくり聞き返された。(一部の生徒がそれを笑ったそう)

・街を歩いていたら、通りすがりの人に噛んでいたガムを押し付けられた。

・Fから始まるワードと日本人を侮蔑する用語で呼ばれた。

・「日本人はテロリズム精神を持ってるからね」と言われた。

・みんなで抱っこしている猫を撫でていたので自分も撫でようとしたら、ふいに避けられ「アジア人は猫を食べるから」と言われた。

・レストランで環境の悪い席に通された。

・そばへ寄ってきて、クサいというように鼻をつまむしぐさをされ、離れていった。

差別する側もいろいろな差別方法を考えるものだと苦笑いしてしまうほどですが、実際に直面したのが自分だとしたら、気分はたまったものではありません。

人種差別は学校ブランドに傷をつける

もちろん、差別に合うのは日本人やアジア人だけではありません。国際教育専門家のための調査及びニュースを報じるPIE Newsは2017年10月30日の記事において、ヨーロッパの留学生ネットワークであるESN(エラスムス・ステューデント・ネットワーク)の調査結果から平均17%の学生が「滞在施設を探す際に差別に遭遇した経験がある」ことを掲載しました。

また、世界大学ランキングを発表するTimes Higher Educationが2014年4月6日に報じたところによると、英国大学に在籍するアフリカ系学生のうち56%が学内で差別に直面したことがあり、73%が在籍大学における人種の公平性を「poor」もしくは「very poor」と評価しています。

一方で、人種差別のある学校や学校体験は、学校のブランドに傷をつけるものであり、留学生を誘致したい大学にとっては大いに配慮するべき課題だともされています。留学業界向け情報機関のICEF Monitorが掲載した、留学生の満足度と帰国後の社会的影響についてまとめられたレポートによると、「留学生の満足度」として重要視しなければならない要素として、語学力の到達度やローカル学生との交流などと並んで「人種あるいは民族差別を含む、ローカル学生の留学生に対する知見」が挙げられています。

ダルビッシュ選手から何を学ぶ?

冒頭に述べたとおり、これから留学しようと思っている人たちは「差別を受けたらどうしよう」と思っている。そして、長く滞在すればするほど、恐らく差別に直面することは避けられない。

ワールドシリーズ第3戦で、グリエル選手がアジア人を侮蔑するようなジェスチャーをしたことについて、ダルビッシュ選手は自身のツイッターに英語でこう投稿しています。

(原文邦訳)
「完璧な人はいません。あなたも私もそうです。彼が今日やったことは正しくありません。しかし私は、彼を責めるよりも学ぶことに重点を置くべきだと思います。このケースから何かを得られれば、人類にとって大きな一歩になります。」

ダルビッシュ選手が望むとおり、留学生がこのケースから学べることは何でしょうか。

まずは、ダルビッシュ選手の冷静な態度でしょう。ダルビッシュ選手は、グリエル選手の侮蔑的なジェスチャーに対し、その場で怒りをあらわにする選択肢もありました。過去にはサッカーW杯決勝で、フランスのジダン選手がイタリアのマテラッツィ選手に頭突きをくらわせるという事件も起きています。ジダン選手は後に、マテラッツィ選手から差別用語を言われたことに憤慨し暴力行為に及んでしまったと発言しましたが、当該試合においては退場処分となり、当大会をもって引退を表明していたジダン選手の選手人生の中の暗い一面としてファンの心に残ってしまいました。

もし、留学生が実際の差別の場面で相手に怒りをぶつければ、摩擦はエスカレートし、暴力沙汰になる可能性も大いに考えられます。相手の差別行為は意識的だったのか、無意識によるものだったのかはわからないし、泣き寝入りは悔しいものでしょう。しかし、留学生の自己防衛という観点から考えて、暴力に発展するようなもめ事は何を置いても避けなければなりません。

また、今回のケースからもわかるとおり、差別的行為を行う人よりもそれを非難する人たちのほうが圧倒的に多いことも知っておくべきでしょう。ダルビッシュ選手が会見で、不快感について軽い冗談も交えながら述べ、差別の対象を自分だけでなくアジア人全体としてとらえるという視点を示したことで、この件は個人のものから社会のものへと入れ替わりました。2人が著名人で、かつ注目の集まる試合だったこともありますが、留学生だって公の発表を行う場や授業などで差別的行為に直面すれば、そこは小さな社会ととらえるべきです。

筆者はダルビッシュ選手に感謝します。筆者自身、今回のケースを通じて、留学と人種差別についてより深く理解するためには、アンガーマネジメントや偏見の本質について、より知っていくことが大切なのだと学べたからです。

文: 若松千枝加(留学プレス編集長・留学ジャーナリスト)
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