政府「留学生30万人計画」目標まで残り11万5千人、どう達成するか ~ 若松千枝加(留学プレス編集長・留学ジャーナリスト)

日本政府の「留学生30万人計画」。2020年の東京五輪までに外国人留学生数を30万人に増やすという計画です。30万人と言ってもすぐにピンとは来ないかもしれませんが、だいたい東京都新宿区や福岡県久留米市、あるいは三重県四日市市のそれぞれの人口と同じくらいと考えれば想像がつきやすいでしょう。
 
平成26年5月1日現在の留学生数は18万4155人(日本学生支援機構/平成27年2月発表)。前年より1万6000人ほど増えているとはいえ、目標達成するには、残り5年で11万5000人増やさなければなりません。なにかヒントはないでしょうか。
 

成功例がアメリカとオーストラリアにあった

 
そのヒントを聞きに2015年9月11日、東京/新宿で行われたセミナー「大学のインバウンド・アウトバウンド留学における留学エージェント活用事例研究(主催:JAOS海外留学協議会)」を訪ねました。
 
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注目していたのは、次の2つのセミナーです。1つは、カリフォルニア州立大学ロングビーチ校の留学生獲得戦略の事例研究。もう1つは、留学大国として名高いオーストラリアの事例紹介です。
 

年々増える出願数。独自の改革で成果をあげる米西海岸の大学。

 
アメリカ合衆国は近年、国務省が主導で Education USA というスローガンのもと資金調達をし、教育を宣伝しています。しかしこれまでの歴史のなかで、アメリカという国は決して、常に積極的な「留学生誘致国」だったわけではありません。
 
カリフォルニア州立大学ロングビーチ校の留学生リクルーティング担当・川島恵美子氏はセミナーの冒頭で次にように語りました。
 
「英国やオーストラリアは、留学生は学費を落とすだけでなく、その土地に住み、車を買い、家を借り、そうやってお金を落とす存在なのだということをよくわかっている。だから国をあげて留学生獲得制作をすすめてきたのです。」
 
米国の州立大学としては国に頼るばかりでなく、大学独自の取り組みによって成果をあげる必要があったというわけです。同大では3年前の学長交代に伴って留学生リクルーティング体制を改革。出願数は年々増加の一途をたどり、大学院に至っては「困るくらい増えている。」のだとか。
 
「出願数が増えれば、それだけ優れた生徒を選抜できるということです。」 これは大学にとって大きな価値と言えるでしょう。実は同大でもかつては、外国人留学生受け入れに消極的な意見もあったといいます。州立大学は地元のもの、州の学生たちのためにあるべきだと主張する教授陣の意見を、どう変えたのでしょう。
 
「当大学では、留学生の授業料の一部が地元学生の奨学金に活用されています。また、州立大学である当大学は(私立大学にくらべて)決して裕福で恵まれた環境に育った学生ばかりではありません。留学生がキャンパスにいれば、地元学生はそこで自然にダイバーシティを学べるんです。」
 

「エージェントからの留学生獲得、世界第一位」のオーストラリア

 
オーストラリア大使館・市川智子氏によるセミナーで最初に明らかにされたのは、留学大国オーストラリアでは大学における留学生の実に半分以上(56%)を、諸外国の留学エージェントから獲得しているという実績です。先述のアメリカが11%だったのとは大きな差を感じさせます。
 
エージェント活用先進国のオーストラリア。同国では留学生保護のための厳しい法律を設けています。「留学生のための教育サービス(ESOS)法」です。
 
政府が大学に対して世界中のエージェントとの関係を定めたESOS法。教育機関に対し、サポート体制、苦情管理体制、出席率チェックなどのほか留学生担当官の連絡先確保に至るまで細かく規定、世界中のエージェントとの関係についても定めています。透明性ある情報提供を求めル内容で、大学とエージェント間では10ページ以上にわたる細かい業務提携内容を盛り込んだ契約書を交わすのが常となっているそうです。
 
そのほか、オーストラリア政府はエージェントの現地視察を奨励し、EATC(Education Agent Training Course)と呼ばれるエージェント向けトレーニングも用意。政府が認定するカウンセラー資格もあります(PIER=Professional International Education Resources)。
 

連動しているインバウンドとアウトバウンド

 
カリフォルニア州立大学の川島氏が「留学生は多様性を大学内に自然に生まれさせる」と語ったように、インバウンドの成功は学生が世界へ目を向けるきっかけとなります。セミナーに参加していた国内の大学担当者のなかには、インバウンドとアウトバウンド両方を受け持つ人もいました。
 
その国内大学担当者は次のように語りました。「なぜ留学生を誘致すべきなのか。増やしたほうがいいと当たり前のように思っていたが、その理由を今一度明確にしたほうがいい。自分だけが理解しているのではなく、学内みんなが共有しなければいけないと思いました。」
 
国に頼らず、大学独自の活動によって留学生獲得に成功したアメリカの事例。国を挙げて留学大国となったオーストラリア。日本の「留学生30万人計画」を達成するヒントは、どちらの道にあるのでしょう。
 
文:若松千枝加(留学プレス編集長/留学ジャーナリスト)
 
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