トランプ政権誕生で懸念されるアメリカ留学への影響~若松千枝加(留学プレス編集長・留学ジャーナリスト)

選挙戦を通じて、移民政策について過激とも思われる発言を繰り返してきたドナルド・トランプ氏。移民カテゴリのひとつでもある留学生の受け入れについて今後どんな政策をとるのか。日本人留学生への影響を合わせて、考察していこう。
 
トランプタワー
 

留学生は「ウェルカム」が表の顔

トランプ氏は、基本的には「留学生は歓迎だ」という態度を明らかにしている。2015年には自身のツイッターで次のようにツイートしている。
 
“外国人が米国のすばらしい大学に入学し、米国に滞在したいというのなら、彼らはこの国から追い出されるべきではない。”


 
“私は才能ある人たちにこの国に来てもらいたいと思っている。–よく励んで米国市民になってもらいたい。シリコンバレーはエンジニアetc.が必要なんだ。”


 
この発言だけを見れば、トランプ大統領体制においては留学生受け入れがさらに促進されていき、高い能力の人材は米国滞在が優遇される見通しにも聞こえる。
 
しかし、この発言の裏で、トランプ政権では、ある2つの『ビザ』の制限が見込まれている。
 

交流訪問者ビザ「J-1ビザ」の廃止

トランプ氏は「J-1ビザ」という交流訪問者ビザを廃止し刷新すると公にしている。J-1ビザとは交換留学生やビジネストレイニー、インターンシップ生などに発給されるビザのことで、最長1年半、研修を目的に合法的に米国で就労することができる。
 
廃止の理由としてトランプ氏は、J-1ビザホルダーが安い賃金で仕事に就くせいで、アメリカ人の雇用が奪われていると説明。米国の雇用主は、今後はJ-1ビザホルダーより米国市民に職を回せということらしい。
 
これについて2016年3月14日に、シカゴ・トリビューン紙がおもしろいことを報じている。シカゴ市内にあるトランプ氏のホテルでは多くのJ-1ビザホルダーが雇用されており「彼らが一斉にいなくなったらこのホテルの業務はどうなるかわかってるんだろうか」という懸念の声があるようなのだ。トランプ氏はJ-1ビザホルダーが自身のビジネスに深く関与していることを知らなかったのかもしれない。
 
J-1ビザ廃止による日本人留学生への影響も考えておきたい。日本人留学生の場合、就労を目的にJ-1ビザを取得するというよりも、純粋に企業や教育機関などで研鑽を積む一環としてインターンシップや研修に赴く傾向が強い。いずれは帰国をしてビジネスの世界で活かそうと考えていたり、のちのちはアメリカに限らずグローバルに力を発揮するための修行なのだ。
 
その機会が奪われることになれば、残念というほかない。J-1が廃止され、アメリカへのインターンシップがかなり制限されることになれば、留学先として選ばれるのはアメリカから他の国へ移っていくだろう。
 

シリコンバレーから優秀な外国人がいなくなる?

もうひとつ、アメリカの大学や大学院を優秀な成績で卒業してシリコンバレーの企業で腕を振るおうと思っていた人にとっては残念なお知らせがある。
 
J-1ビザとは別に、トランプ氏は「H-1Bビザ」についても、制限を加えるよう提言すると言っている。H-1Bビザとは特殊技能職に認められる就労ビザのことだ。先述のトランプ氏ツイート「シリコンバレーには優秀なエンジニアが必要だ」とは相反するようにも見える。
 
現在アメリカでは、9か月以上の専門教育を受けた人がその専門分野を活かして就労できる「OPT(オプショナル・プラクティカル・トレーニング)」という制度もある。そのため、H-1Bビザ以外にも合法的に就労するチャンスもあるにはあるが、OPTは就労というより、専攻分野を実践的に深く学ぶために設けられている制度のため滞在期間は短く限られている。
 
H-1Bビザへの制限内容によっては、優秀な学生たちはアメリカで修士や博士を取るのをやめ、アジアやヨーロッパのトップランク大学を選ぶ可能性も出てくるだろう。
 

60%の学生が回答「トランプ政権ならアメリカへは留学しない」

ビザのことも気になるが、日本人留学生にとって一番気になるのはアメリカでの留学環境だろう。2016年6月に行われたNAFSA年次大会(世界最大規模の国際教育交流カンファレンス)では興味深い数字が発表された。
 
188か国・40,000人以上の学生からのアンケートの結果、もしドナルド・トランプ氏が大統領に選ばれたら、60%以上の学生が留学先としてアメリカを選ばないと回答したのだ。(出典:FPP EDU Media)
 
とりわけ拒否反応が強かったのは、トランプ氏が「国境に壁を築く」と発言したメキシコ。そして、メキシコに与えた心象は南米各国全体へも悪影響を及ぼした。
 
また、アジアの数か国においても拒否反応が強く出ている。ムスリム系学生の多いマレーシアやインドネシアはそれぞれ50.9%と48.1%がノーを投じており、その他フィリピン、ベトナム、インドなどから強く拒否回答が得られた。
 
アメリカの大学にとって、留学生からもたらされる授業料は貴重な収入源だ。また、大学ランキングにおいて「多様性」や「国際性」は大きな審査要素。どの大学も懸命に大学内のダイバーシティバランスにいそしんでいる。そんななか、一定の国々からそっぽをむかれれば大学ランキングに大きく響きかねない。
 
2014~15年にアメリカの大学/大学院に在籍していた日本人留学生数は19,064人(出典:IIE-Institute of International Education)。民間校への語学留学生や高校生などを含めれば軽く20,000人を超える。「人種のるつぼ」であった留学先・アメリカ。その姿が変わっていくのかどうか見守りたい。
 
文: 若松千枝加(留学プレス編集長・留学ジャーナリスト)
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