昨今、日本人の語学学習で足りないのは「話すこと=アウトプット」と言われる。本当にそうなのか?アウトプットより「読書=インプット」が大事だと説く言語学研究者がいる。その説を元に語学学習に必要な要素を紹介しよう。
「読書=インプットが大事」という説は第二言語学習の研究から始まった
第二言語学習の研究の歴史は浅く、1970年代ごろからだと言われている。その分野の第一人者、 ステファン・クラッシャン(Stephen Krashen)は語学学習に必要な要素はインプットだと説いている。
彼は言語習得に関して「習得」と「学習」があるとしている。習得は人間が第一言語を話せるようになるのと同じ過程を示し、学習は学校などで語学を学ぶことを示す。クラシャンの説はどちらかというと「習得」に基づいている、というところが1つの重要なポイントだ。そのポイントを踏まえて、語学学習の重要要素について紹介していこう。
言語学習における「読む」「聞く」ことの重要性
インプット仮説(Input Hypothesis)とは、クラッシャン が言語習得において1970年代から80年代に提唱した第二言語習得に関する5つの仮説の1つである。
彼は「言語学習者が受ける理解可能なインプット(comprehensible input)が最も重要である。」と言う。これは、理解可能な言語が他者から発話された場合、もしくは書かれている場合といった「インプット」のみが言語習得に関係するというもので、言語アウトプット(話す、書く)は学習者の能力向上には関係ないと述べている。
言語能力は言語が「無意識に」習得された時のみに増加し、意識的な学習による習得は学習者の気分に大きく依存する。学習者がストレスにさらされていたり、学習意欲が持てないと習得が著しく阻害されるそうだ。
語学学習においてアウトプット(話すこと)は必要ではない。大事なのはインプット(読書)
クラシャンは語学学習においてOUTPUT(話すこと)は必要ではなく、読書が大事だと言っている。特に自発的読書は読み、書き、文法、そして語彙力の発達に大いに関係していると言う(※注『クラシャン2004』)。
更に、同レポートの中でクラシャンは第二言語習得と読書の量は比例していると言ってており、成人者による英語学習においては青少年用の本のシリーズの読書だけで英語力がアップしたという報告もある。
例えば、意味が分からないことが多い英語の授業を聞いているより、自分の好きな分野やストーリーの英語の本を読んでいるほうがその理解も多く、言語習得につながるということだ。
読書だけで完全に英語学習ができるということではないかもしれないが、読書が語学学習において、重要な要素であることは間違いない。
インプットだけで本当に語学学習が可能なのか
それでは本当にインプットだけで本当に言語習得ができるのだろうか。この見解は言語習得の学術的な説であり、実際にその例を示しているわけではない。
むろんクラシャンの仮説は今だ仮説であり、言語学者のなかには反クラシャン派も存在する。彼の言う言語学習と言語習得の境も科学的には証明されておらず、インプット仮説は今だ仮説でしかない。
しかしながら、インプットの量は言語習得に比例するということは多くの研究者の間でも評されている。
語学学習法と語学教授法の違い
実際、クラシャンの説は語学学習法と言うよりは、語学教授法に近いとも言え、彼の語学の教授法がこのインプット仮説を元にしていると言える。
ただただ理解不能な外国語を読んだり、聞いたりしても分かるわけがない。理解できなければ言語学習もできない。しかし、読んだり、聞いたりした外国語が何が書いてあるのか、何を言っているかを知る手段があれば、その語学を理解していくことができ、言語習得が可能だということだ。
分かりやすい実例として、実際の彼の言語の教え方を紹介しよう。
彼はホワイトボードに顔を書き「顔です。」と言い、その後に目を書きながら「これが目です。」そして鼻を書きながら「これが鼻です。」と話す。学習者はその絵と先生の言葉を聞いて、「ああ、これは顔なんだ、目なんだ鼻なんだ…。」という具合に言語を理解し、学習していく。
(参考資料 https://www.youtube.com/watch?v=shgRN32ubag)
多言語話者は「会話」に重要性を置いている
インプットを重視するクラシャンに対し、言語学習者のプロフェッショナル「多言語話者」で知られる カフマン(KAUFMANN)は「話すこと」の重要性を説いている。一見相反する説にも聞こえるが、 実はこれはクラシャンが言う理解可能なインプットにも関連している。
「理解可能なインプット」には他者からの発話も含まれており、他者からの発話とは会話により発されるものでもある。誰かの発話を聞くときには、自分(=言語学習者)と、相手(=その学習言語のネイティブスピーカー、もしくはその学習言語を話す非ネイティブスピーカー)との会話が必要になる。その点に置いては、他者からの発話を促すために会話も重要だと考えることができる。
カフマンは、学習言語の国に行く機会がなければ、会話がなくとも読み書きだけである程度の言語学習ができ、特に語彙学習などではインプットだけでも向上できると言っている。しかしながら、可能であれば他者と話すことは言語習得に有効だとカフマンは言っている。
(参考資料 https://www.youtube.com/watch?v=atCo4QMSrRs)
これはインプット仮説の後に問われたいくつかの仮説に関連するが、それは又改めて紹介していきたい。
確かに、一人で言語学習をするより、他者と話し、自分が学習した言語を試し、それが通じたときには達成感も味わえるだろう。それに、言語学習は言葉そのものを覚えるだけでなく、他者とのコミュニケーションという大事な要素が関係していることを忘れてはいけない。
文:篠崎久里子(フランス大学院日本語講師)
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