祇園でマナーを知ることも、訪日観光客の異文化体験 ~若松千枝加(留学プレス編集長・留学ジャーナリスト)

京都市・祇園で、舞妓さんが外国人観光客から袖を引っ張られるなどのトラブルが相次ぎ、外国人観光客向けにマナー違反を表示した高札が登場したことが話題になっている。このニュースについては立場によって意見が分かれるところだと思うが、訪日リピーターが増えればおのずとトラブルはつきまとう。
 
折しもそのニュースに触れた2016年1月24日放送のテレビ番組「真相報道バンキシャ!」で、ゲストコメンテーターとして登場していた元観光庁長官の溝畑宏氏は「リピーターを増やすには異なる文化を受けとめてあげること。」また、小説家の石田衣良氏は「日本人も50年前まで高級ホテルをステテコ一枚で歩いていた。気にすることないですよ。もてなしてあげてじゃんじゃんお金落としてもらいましょう。」との発言をしていた。
 
さて、訪日リピーターを増やすのに、果たして『受け入れる寛容さ』だけで良いのだろうか。
 
祇園 マナー
 

静寂ルールを守れなかったアジア人観光客に対して・・・

いったん、ヨーロッパで見かけたアジア人観光客の話をしよう。
 
昨年、ヘルシンキ(フィンランド)のテンペリアウキオ教会に立ち寄ったときのこと。『石の教会』とも呼ばれるこの教会は、巨大な岩をくり抜いてできている。岩壁とガラスに覆われたこの場所は自然の神秘がもたらす素晴らしい音響施設ともなっており、コンサートも開かれるそうだ。
 
▼岩壁とガラスでできたテンペリアウキオ教会
テンペリアウキオ 
 
むろん、ここを訪れる訪問者は静かに行動することが求められる。教会入口にも書いてあるし、ガイドブックにも書いてある。
 
しかし残念ながら、アジア人と思われる観光客多数が「静寂のルール」を守っていなかった。大家族の幼子たちは献花台や燭台の間を走り回り、観光日程に疲れた大人は礼拝堂の椅子のあちらこちらに腰かけて大声でおしゃべりを始めた。
 
また、一日に何度か行われる定期ピアノ演奏が始まると、ピアニストの正面からも背後からもパシャパシャと写真を撮り始めた。そのシャッター音は、心鎮めるための音楽をおおいに邪魔した。
 
一曲目を弾き終ったピアニストが立ち上がった。演奏が終わったから帰るのかな、あるいはその騒がしい状況に耐えられず立ち去るのかな、そんなことを思っていたら、ピアニストは正面で動画撮影中だったアジア人に静かに何かをつぶやいた。聞こえたのは話しかけられたアジア人二人組だけだろう。
 
言葉が通じたかはわからない。しかし、その二人組はきちんとピアニストに何かを言い、握手をして近くの椅子に座った。
 

「日本の分別ってすばらしいよね」

そういえば、日本在住の台湾人女性が、以前こう話してくれた。「日本の分別って素晴らしいよね。めんどくさいなんて思わない。だって環境を意識して市民が手間をかけてごみを分けるなんて、本当に美しいもの。最初にマンションの管理人さんに注意されたときは驚いたけど、私、早く分別ルールを覚えたくてその後たくさん質問したわ。」
 
この話をしてくれた彼女は日本の新しい一面を知るたびに日本が好きになり、日本に何度も観光や留学で訪れて、日本在住という現在に至っている。リピーターは「知らない」が「知る」に変わることでも獲得できる。
 
先述したテレビ番組では、誤ってペットボトルの捨て場所にポリ袋を捨ててしまったスペイン人客や、串カツの二度漬け禁止ルールがわからずに何度もつけて食べてしまう台湾人客も紹介されていた。
 
別に彼らはルールを破ろうと思っているわけではない。知らないだけだ。日本を訪れるのは、見たことのない日本を知りたいからだ。私たちが外国へ旅するときと同じだ。
 
ステテコで高級ホテルを歩いていた日本人は、誰かに注意されただろうか。もし注意を受けていたなら、恥ずかしさと同時に「次にここを訪れるときは、ふさわしい自分として帰ってこよう。」と思ったのではないだろうか。
 
祇園に建てられた新しい高札は「受け入れる」だけでなく、新鮮な体験を「与える」ものになっている。東京人である私だって、祇園には全然慣れていない。足を踏み入れるときは、ちょっとお尻の穴が締まる。でもそんな緊張は楽しいものだ。
 
緊張体験を与えることも「おもてなし」のひとつと言っていいんではないだろうか。
 
文: 若松千枝加(留学プレス編集長・留学ジャーナリスト)
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