翻訳者のお仕事 – ツール編/字幕翻訳の仕事の一部と必須のツールをご紹介~キャッチポール若菜(映像翻訳者・通訳)

私がよく受ける映像関連の翻訳の仕事は大きく分けて3つある。
1. 日英字幕
2. 素材翻訳
3. マンガ翻訳
 
英語ではvisual media translator(映像翻訳者)とも言われるこの職業では、動画はもちろん、マンガなども翻訳対象になっている。テレビ、映画、マンガなどを見るのが好きだから映像翻訳者になりたい、と思う人が多いはずである。
 
この『好き』という気持ちは翻訳者にあって当然という要素だとして、もうひとつ、大事な物がある。ITツールである。
 
今の時代、個人個人が仕事でPCを使うのは当たり前だが、字幕翻訳ではドキュメントとキーボードさえ使えればいい、というわけではない。
 
今回は私が翻訳業で使っているツールをご紹介しようと思う。
 

字幕翻訳にユニークなハコ切り

さて、先に述べた3つの仕事のうちで、一番時間がかかるのが1の日英字幕作りである。その理由はハコ切り、またはハコ割りやスポッティングと呼ばれる作業があるからだ。
 
字幕翻訳作業において、1つの字幕は1枚、2枚と数える。その際、1枚の字幕を、動画のタイムコードでどこからどこまでにするか(始まりをIN点、終わりをOUT点という)を決めなくてはならない。
 
話者が変わったところで切る、というのはわかりやすいのでまだ良い。しかし、インタビュー映像などで1人が話し続けている場合には「言い直し」や「どもり」「少し考える時の間」などを考慮しながら、1~2枚で意味が通る切り方をしなくてはならない。
 
私自身はこういう場合、切りながら訳まで考えていることもよくある。
 
字幕の場合、話者の声が聞こえる少し前から訳が出るようにハコを切る必要がある。この「少し前」というのが、○フレーム前(フレームとは動画のもとになる静止画像の1コマ1コマのこと。)と決められていることが多いので、フレーム毎の再生・停止が可能なソフトがないと、正確なハコ切りができなくなる。
 
このハコ切りから翻訳までを、ある字幕ソフトを用いて行っている。
 

字幕翻訳では当たり前!?『SST G1』とは

日本では株式会社カンバスのSST G1 という字幕制作ソフトが主流で、字幕翻訳者から編集者までこのソフトが使われている。
 
日本語コンテンツに英語字幕をつける私の場合はこのソフト上で:
1. ハコ切り
2. 原語(日本語)入力
3. 翻訳
を行っている。

SSTG1
 
もし、動画を再生しながらハコを切ろうとすると、IN点・OUT点を書き出さなくてはならないのはもちろん、1枚の字幕が何秒だったか、それだと字幕を何文字くらい入れても大丈夫か、などを自分で計算しなくてはならないことになる。(実際、翻訳学校で勉強中で、まだこのSST G1を所有していなかった頃は、そういう作業も経験した。)
 
このソフトなら、ハコが切られると同時に、それを計算をしてくれる。また、訳を入れると、現在何文字使っているか、少なすぎないか、多すぎないか、なども教えてくれるのだ。(もちろん、訳によっては簡単な単語が並んでいたり、固有名詞が入ったりなどで、厳密にこれを毎回守るというわけではないが、1つの基準にはなる。)

SSTG1
 
できあがったら保存、そうすると.sdbというフォーマットの字幕ファイルができあがる。
SDB-file
 
このファイルは非常に軽く、メール添付で納品することができる。(ちなみにこの.sdbファイルはこのカンバス社のSST G1シリーズからしか生成することはできない。)

マイクロソフトExcelファイルでも出力することができ、こちらで見直しをしたりスペルチェックをしたりしている。Excelなら、仮に.sdbが開けないプロダクションの場合でもデータとして字幕データを受け取ることができるので、後から必要なフォーマットに変えることも可能だろう。

映像翻訳ツール
 

気になる価格は・・・?

字幕翻訳を作るのにとっても便利な字幕ソフトSST G1。

最近では仕事レベルに合わせていくつかの選択肢があるが、例えばSST G1 Proは302,400円、SST G1 Liteなら213,840円(それぞれ2015年9月時点でのカンバス社の税込み価格表に基づく)というソフトウェアなので、購入には少なからずの覚悟がいる。

しかしこれがないと仕事を受けられないので、買うしかない。日本で字幕翻訳者になるときの初期投資なのである。
 
文:キャッチポール若菜(映像翻訳者・通訳)
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