「手話」の授業受けたことありますか?(1)学校の授業で手話を学べるアメリカ~雨宮早紀(アメリカ留学生)

「ろう者学」という学問について、聞いたことはありますか?ろう者学とは一言でいうと手話を第一言語とするろう者について勉強する学問です。手話を言語として使う人は世界的にみても少数。その意味でろう者はマイノリティと言えるでしょう。

しかしろう者にとって手話は母語。健常者が日本語や英語を使うように手話にも文化があります。ろう者学では手話と手話文化、そしてその手話文化を使うろう者について学びます。

筆者は今アメリカでろう者学を専攻していて、必修科目としてアメリカ手話の授業を受講しています。ここで感じるのは、手話を学ぶ機会の多様さと、手話を生かしたキャリアの幅の広さ、「ろう者学」という学問が発達しているということです。日本にはろう者学専攻を設置している大学はなく、世界的にはろう者学後進国と言っていいでしょう。

本記事ではアメリカででろう者学を専攻する者として米国で感じている手話教育への身近さや、ろう者学専攻で行われる授業について紹介します。

第一回の今日は、まず日本で手話を学ぶ場合の現状、そして、日本と違って手話を「言語」ととらえ、学校で外国語科目のように行われる手話教育について、そして手話を学ぶことの身近さとともに「ろう者学」を初めて知る方にろう者学で学べることについてお伝えします。

日本で手話を学ぶには?

日本で手話を学ぶ手段

一部の高校や大学で、入門レベルの手話クラスを開講しています。しかしこれは非常に数が少ないのが現状です。

日本での手話教育の中心は、基本的には市区町村の福祉課もしくはそれに準じた団体。筆者も地域の手話サークルと通訳者養成講習会に毎週通って日本手話を身につけました。

日本における手話の考え方

手話は「言語」だというのが世界標準の認識です。しかしこの認識はまだ日本では浸透していないのが現実です。

日本では手話は『世界共通』のジェスチャーのようなものと信じている人もいます。
しかし手話は地域によって全く異なります。アメリカ手話と日本手話は完全に異なりますし、音声言語との従属性もないので、英語手話というのは存在しません。

▼アメリカ手話の6(左)と日本手話の6(右)
アメリカ手話の6(左)と日本手話の6(右)

たとえばアメリカ、イギリス、オーストラリア、それぞれの公用語は英語ですが、手話は「アメリカ手話」「イギリス手話」「オーストラリア手話」とすべて異なる言語を使います。

また、日本ではろう者学を専攻として設置している大学はありません。

アメリカの高校・大学では手話は「第二言語」

アメリカの高校や大学では第二言語として選択できる科目

大学でクラスメイトに手話の勉強を始めた理由を聞くと、「高校の時にクラスを取っていた」という答えが何度か返ってきました。そこで初めて、アメリカでは手話は第二言語として学校で学べる言語というのを知りました。

もちろん高校だけでなく大学でもアメリカ手話を第二言語クラスとして設置している所は多く、若年層への手話の裾野の広さを感じます。

手話通訳者養成は大学などのアカデミックの場で。

地域で手話通訳者養成を担うのが一般的な日本とは対照的に、アメリカでは手話通訳者はアカデミックの場で養成するものとされています。

私の大学ではろう者学の準学士を取得した後に、学内の通訳養成課程へ編入するパターンもあります。この課程では卒業時には学士を取得でき、また試験に合格すると手話通訳の有資格者として認められます。日本とアメリカ、手話についての考え方の違い

手話=福祉の日本

ほとんどの人は、手話は耳が聞こえない人を手助けするための福祉的なサポートのひとつとして考えています。大抵の本屋さんでは手話に関連する書籍は福祉関連のエリアに置かれていますし、高校生向けの進路ガイドでは手話通訳者という仕事は福祉の分野の仕事として紹介されています。

手話=言語のアメリカ

一方、日本と比べると、アメリカでは手話は言語であると考えられているので手話通訳者のポジションは他の言語通訳と同等です。職業として手話通訳がしっかり認知され、日本と比べると安定した雇用条件のもとで働くことができます。

アメリカの大学での「ろう者学」専攻とは?

「ろう者学」専攻で学べること

ろう者の言語である手話はもちろん、ろう者の社会、歴史や文化を学ぶことができます。

例えば、ろう学校が世界で初めて設立されるまでの流れ、ろう学校で手話が長らく禁止され口話を強いられていた歴史など、「ろう者学」という名前の通り、ろう者について学びます。

私がろう者学をアメリカでやろうと思った理由

地域のサークルに入り手話を学び始めてから「手話はろう者の第一言語で、ろう者はマイノリティで聴こえる人たちとは異なる文化を持って生活をしているんだよ」というのを何度もサークルの先輩方から聞いていました。

その頃、日本の大学で異文化コミュニケーションに関する授業をいくつか履修していましたが、ろう者に関する項目は一切ありませんでした。異文化と聞くと人種あるいは海を越えたところにあるものばかり考えてしまいがちですが、人種や海を越えずとも目の前に異文化が存在します。

そのことに気付いてから、私はろう者に興味を持ちしっかり学問として勉強したいと思うようになりました。すでに書いた通り、日本にはろう者学を設置している大学はないこと、またアメリカ手話を勉強していたこともあり、アメリカでろう者学を専攻することに決めました。

どんな学生が学んでいるか

本当に様々です。通訳者を目指す人もいればソーシャルワーカーになりたい人もいます。手話そのものが好きなクラスメイトもいます。日本にいた頃は手話を勉強する目的の全てが手話通訳者になることになってしまいそうでしたが、今は、通訳者以外にも目指す道があるというのを知ることができました。

以上、アメリカでの手話教育の在り方についてご紹介しました。
手話と聞いて福祉のイメージを持つ日本と、言語の一つとして捉えられているアメリカの違い、そしてアメリカのろう者学専攻について、少しイメージがわいたでしょうか。
第二回「アメリカの大学の「ろう者学」専攻とは?」ではろう者学ではどんな授業が行われているのか、その具体的な内容を執筆したいと思います。

文:雨宮早紀(アメリカ留学生)
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