トラック暴走テロ事件から1年余の仏ニースに留学生たちが戻ってきた。~若松千枝加(留学プレス編集長・留学ジャーナリスト)

南フランスの美しいリゾート都市ニースを惨劇が襲ったのは2016年7月14日のことだった。フランス記念日のこの日、花火鑑賞に人たちでにぎわう海岸沿いの遊歩道「プロムナード・デ・ザングレ」をトラックが暴走。少なくとも84人が死亡し、202人の負傷者が出たと言われる。

観光と並んで留学地としても人気のあるニースからは、たちまち留学生の姿が消えた。しかし事件から1年4ヶ月。ニースを訪れてみると、世界から留学生たちがニースに戻ってきつつあった。

▼惨劇のあった遊歩道「プロムナード・デ・ザングレ」。事件など嘘のように、散歩やジョギングをする街の人たちや観光客が行き交う。

倒産に追い込まれた学校も

「事件のあと1年は、とても、とても、厳しいものでした。」今回訪れたニースのある語学学校校長は『とても、とても』を強調してそう言った。「入校を申込んでいた人たちから、たくさんキャンセルが入りました。学生はみるみる減りました。」

欧州各国からのキャンセルもあったが、なかでも日本人からは敏感な反応が入ってきたと言う。高校の団体研修の予定もあったが、やはり取りやめとなった。

また、ある学校では、在学していた学生のうちの30%が留学計画を見直し、帰国あるいは場所を移したと言う。入学願書が届いていた新入生については50%以上がキャンセルまたは延期となった。市内の語学学校のなかには経営がたちゆかず、閉鎖に追い込まれたところもあった。

強化された治安対策

「留学生は1年をかけて徐々に戻ってきました。」と前述の校長は語る。ジュニア向けのサマーキャンプにも活気が戻ってきたという。

ある学校では事件以前の8割まで学生数は回復し、2018年の入校希望者数も今のところ見通しは明るいようだ。ただ手をこまねいて自然な学生数回復を待っていたのではなく、新しいコースの投入や海外各地へのプロモーションを強化するといった努力もあった。問い合わせへの迅速な対応や滞在先やサポート体制といった細かいホスピタリティを見直し、充実させた。

▼自由・平等・友愛を象徴するフランスの国旗。その理念に共感する留学生や移民も少なくない。

何人かの留学生に、留学を決断するにあたって事件のことは気にならなかったかを聞いてみた。

「留学するならニースに来たいと思っていた。フランスの他の都市は考えていなかった。」
「心配しても仕方がない。遭遇してしまったらそれは自分の運命。」
「テロの後は警戒が強くなってかえって安全だと思った。」

「警戒が強くなる」と回答した学生の予感は的中している。市内は至るところに警官がたつだけでなく、迷彩服をまとった軍人たちも昼夜を問わず警戒にあたっている。100メートルも歩けば2~3人の警官もしくは軍人には必ず遭遇するといった徹底ぶりだ。

▼観光客や地元客でにぎわう骨董市。

タクシーの運転手によると、以前はニースの空港周辺にもぐりのタクシーもみられたが、取り締まりの強化によって今ではライセンスを持つ正規のタクシー以外はみかけなくなったそうだ。ぼったくりはかなり減り、運転手の身元も厳しくチェックされている。

また、高級リゾート地なだけに以前はスリ被害も多かったが、あまりの警官の数の多さにスリも商売あがったりだと言う。

女性の夜の一人歩きもたくさん見かけた。学生も「立ち入ってはいけない雰囲気のところはもちろんあります。しかし、それさえ避けていれば、夜に外を歩いても特に怖い思いをしたことはありません。」と話してくれた。

▼ニースの目抜き通り「ジャン・メドサン」周辺は、夜も賑わいを見せていた

先を考えることに意義がある

「ニースはどうだった?いい街だったでしょう。ニースを訪れた人は、また来たいと言ってくれるよ。人生はどうなるかわからない。事件はとても悲しかったけれど、先のことを心配するより期待するというのがフランス人のメンタリティなんだよ。」前述のタクシー運転手はそう話した。

いまや世界のどこでテロが起きるかわからない。テロの起きる確率、そして件数も、スリ・詐欺・暴漢被害などと比べればずっと低い。とはいえ、留学生にとって安心して暮らせる留学先選びにあたってテロが懸念事項になるのは無理もない。

一方で、悲劇を経てより良い街づくりを目指す街の姿というのも、教訓になるものだ。ニースでは今、新しい路面電車開通に向けて工事が進められている。完成予定の2年後に開通すれば、空港から市内まで10分少々で安価にアクセスできる。「路面電車にお客をとられないようにタクシーも頑張らなきゃ。」と笑う運転手は、もう過去は見ていない顔をしていた。

▼今はタクシーが客待ちをするニース・コートダジュール空港。2年後には新しい姿が見られそうだ。

文: 若松千枝加(留学プレス編集長・留学ジャーナリスト)
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