東京五輪でのボランティア人材育成。奨学金ほか留学の取り組みが本格化。

オリンピック・パラリンピック大会の運営にはボランティアの存在が不可欠だ。過去のオリンピック・パラリンピック大会の例にならって2020東京オリンピック・パラリンピック大会でも2018年8月からボランティアの募集が始まる。

東京オリンピック・パラリンピック大会にボランティアとして参加しようとしている人たちが、活躍し、かつ貴重な経験を共有できるよう、彼らを日本の外からサポートしている活動がある。本記事では2つの活動についてご紹介したい。

前編となる本記事では、国内と海外の両教育団体がタッグを組んで行っているサポートの活動をお伝えする。ボランティアに関心を持つ日本の人たちがどんな目的を持っているかをヒアリング。合わせて、ボランティア人材の育成留学や、ボランティアを目指す人を支援する奨学金制度についてレポートする。

後編では、「2012ロンドンから見えたこと」として、過去に行われたオリンピック・パラリンピック大会でのボランティア事例を紹介。実際にイギリスで、オリンピック・パラリンピックボランティアが社会にどんな影響を与えたかを情報収集し調査する活動についてお伝えする。
 

東京五輪やワールドカップでボランティアしたい人たちにもたらされた奨学金のチャンス。

東京オリンピック・パラリンピックでのボランティア人材育成を目的に、語学力を磨きながら海外でボランティアを経験する留学プログラムを主宰するイー・エフ・エデュケーション・ファースト・ジャパンでは、同プログラムの説明会にのべ150人が参加。参加者の多くは、一生に一度の機会を活かして外国人に日本の良さを伝えたいという希望のほか、二度目の東京オリンピックを迎えるシニア層でこの機会に何かをしたいという希望も少なくないと言う。

また、この冬に注目されたのがオリンピック・パラリンピックはじめ、ワールドカップなど国際スポーツ大会でのボランティアを志す人を対象にした留学奨学金だ。

企画したのはJAOS(一般社団法人海外留学協議会)とIALC(世界語学学校協会)で、合格者69名には4週間の語学学校授業料と滞在費が支給される。この奨学金には全国から学生を中心に関心が集まり、11月中旬に締め切られた募集には382名のエントリーがあった。

東京オリンピック・パラリンピックでのボランティア経験は、どんな見地と経験をもたらすのだろう。2018年1月30日に行われた同奨学金の授与式典会場にて、合格者たちにそのまっすぐな意見を聞いてみたところ、おおむね

1.この経験を通して、自分の成長につなげたい。
2.海外から来る人たちに日本のことを知ってもらいたい。
3.社会に貢献し、役にたちたい。

の3つの目的を持っていることが見えてきた。
 

「やった人とやらない人では明らかに違いがありますよね?」

奨学生の中で最も多かったのが、東京オリンピック・パラリンピックでのボランティア経験が、自分の成長につながると答えた人たちだ。

「ボランティア自体やったことがないので、初めてのことを経験してみたいという気持ちが強いです。」(女性)

「オリンピックというのは、そのスポーツだけを極めて練習してる人たちが世界から集まってくる場所。そういうすごい人たちがたくさんいる環境に身を置いてみたいです」(女性)

「サッカーをやってきて、ドイツに留学した経験があります。仕事でもスポーツと関わりたいと思っています。五輪ボランティアを通じてどういった成果が出るかわからないけれど、自分にとってプラスになることは間違いありません。ボランティアに参加した人はしてない人にくらべ、たくさんの価値観に触れたり、視野が広がるわけですから。」(男性)

「将来、客室乗務員になりたいと考えています。そのとき、異文化理解が大切になると思っています。以前に訪れたトロント(カナダ)で、多文化社会を肌で感じました。トロント一都市の中でそう感じたのだから、オリンピック(のように多国籍の人が集う場)ではますます多文化を感じられるのではないかと思っています。そんな多文化の中でも適切に対応できるような能力を持って社会に出ていきたいです。」(女性)

「五輪ボランティアを通じて、いろんな人の価値観を得られると思う。今後、留学や旅行するにも仕事するにも、この経験が活きるかもしれません。」(女性)

「人生で一度あるかないかのチャンス。語学を磨いて、社会にも貢献できるし自分にもいい経験になります。」(女性)

「趣味のボルダリングをきっかけにいろんな人と知り合い、世界を広げたい。今まで、海外の人たちと接する機会がなかったので、交流したいです。(女性)

▼授与式典会場に集まった奨学生たち

 

「日本の良いところを知ってもらいたい。私も知りたい。」

次に多かったのが、この機会に日本をより良く世界に知ってもらいたいという意見だ。世界中から来日する外国人客たちと交流するだけでなく、これを機会に自分も日本のことを学び直し、訪日客に正しく伝えられるようにしたいと言う。

「日本に来てくれた人にスポーツを通していい思い出を持ってもらいたい。日本代表の一人としてプラスの経験を持ち帰ってもらいたいです。」(女性)

「五輪ボランティアを通じて、外国の人たちとコミュニケーションしたいです。そして日本のいいところを発信したい。」(女性)

「ボランティアでは道案内などを通して、人と関わりたいです。」(女性)

「新しい人にたくさん会えるチャンスだと思います。世界中から来た人たちに会い、日本をもっともっと知ってほしい。お金払ってでもやりたいくらいです。」(女性)

「これからスペインに留学しますが、スペイン語圏の人たちにも日本をもっと知ってもらえたら嬉しいです。自分自身がもっと日本について勉強するつもりだし、スペイン語圏の人たちが何を求めて日本に興味を持っているのかも知りたいです。」
(女性)
 

社会貢献に対する高い意識も。

前項の「日本を広めたい」とやや重なる部分もあるが、より『社会貢献』や、選手の役に立つサポートの側面を強く意識している奨学生たちも少なくなかった。

「2011年の東日本大震災のとき、ぼくは熊本にいて、被災地に向けた支援活動をしました。その後、今度は故郷の熊本が被災しました。ぼくはそのとき東京で大学に通っていたのですが、親が被災して大変なときに他県のたくさんの方々から支援をいただいて自分も今後何かの役にたちたいと思いました。五輪ボランティアは、一人じゃなくてみんなで何かを成し遂げる場面だと思うし、自分もそこに貢献したいです。」(男性)

「スポーツに特に興味があるわけではありません。私の場合は、オーストラリアで生活したことがあり、そのとき地元オーストラリアの人たちはじめ、たくさんの人たちに助けてもらいました。今度は日本に来た人たちの役に立ちたいです。」(女性)

「中高と新体操をやっていました。当時、憧れの選手がいて、その人とコンタクトしてみたいと昔から思っていました。その人はもう引退してしまいましたが、他の選手たちなど、できたら新体操に関わるボランティアに携わってサポートしてみたいです。」(女性)

「もともとスポーツが好きで、国際大会に出ることもありました。日本での五輪は、人生で一度あるかないかのチャンス。しっかり語学を磨いて、社会に貢献したいです。」(女性)
 

第三者じゃなく、渦中の人に。

自己成長、日本再発見、社会貢献。東京オリンピック・パラリンピックでのボランティア経験に対して、どのゴールを目指しているかは人それぞれだ。

ネットの一部では労働対価が支払われないことや労働環境、滞在施設などへの批判などを目にすることもあり、もちろんそういう意見を持つ人がボランティアに応募することはないだろう。

一方で今回の取材を通じて見えてきたのは、人生に一度あるかないかの大イベントに外野ではなく当事者となって携わっていこうという人たちの姿だ。「ボランティア活動期間中には受け身で待つんじゃなくて自分から積極的に行動して、何かを得ようと努力したいと思っている。」と答えた男性の言葉が、それを物語っている。

後編:五輪ボランティア経験のキャリアへの活かし方・2012ロンドン大会に学ぶ。
 
取材/文: 若松千枝加(留学プレス編集長)
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