偏差値を基準にしない『デンマーク流』成績評価方法とは?~田中亜季(北欧研究所シニアコンサルタント)

受験が人生の大きな岐路となってきた日本。高校受験、大学受験、早い方は小学校受験、中学校受験と、それぞれの岐路を経験された方も多いのではないでしょうか。

他方で、学歴社会・競争社会ではないと言われているのがここ、デンマークです。

進学するにあたって入学試験を受けるのは一般的ではありません。高い偏差値の大学を出たから就職しやすいといった状況もなく、そもそも偏差値という言葉がありません。

偏差値を基準としないならば、デンマークでは、どのように生徒を評価しているのかとお思いでしょう。

ぜひ注目していただきたいのは学力だけでなく、意見の発信力や授業への積極性を評価する姿勢であったり、デンマーク式AO入試の存在、学校が合わなかったときの転校の自由、大学以外の進路の選択肢、など、別記事「『個』の自立を目指す教育とは?デンマーク教育に見る子どもの自立と親の自立」でお伝えした『個の自立・自ら考える教育』です。

本記事では非・競争社会であるデンマーク流の成績評価方法と、学校卒業後の職業選択について述べていきます。

正解不正解よりも自分の考えを表現できるほうを大切にするデンマーク

デンマークには大学入学試験がないため、学生は受験勉強をしません。代わりに、学校の成績表によって、大学への入学合否が決まります。

2003年の国際学力調査PISAテスト(=Programme for International Student Assessmentと呼ばれるOECDが進めている国際的な学習到達度に関する調査)の結果が芳しくなかったことから学校教育法が変わり、2013年には従来のカリキュラムが大幅に刷新され、その一環としてテストが実施されるようになりました。デンマークの小中学校(1~9年生)では以前はテスト自体がありませんでしたが、2018年現在、小中・高等学校ではテストが実施されています。

試験は年に数回実施され、卒業時には卒業試験があります。学習習熟度を測るテストの点数と卒業試験の成績、授業での参加・積極性を加味し、学校での成績がつけられます。

デンマークの学校はテストの点数だけ高ければ、良い成績がとれるシステムではありません。たとえば、小・中学校では「周囲との協働」「問題の所在を明らかにする」「教科を超えて物事を文脈に位置付ける」「それらを日常生活に結び付ける」能力を育てることを大切にしており、生徒は正解を答えられるかどうかより、個人の意見をいかに発信するか、や授業への積極性を評価されます。

9歳まで日本におり、その後デンマークの学校へ転校した友人は、最初の頃、人前で話す機会が日本と比べて格段に多く、その違いに驚いたと言います。正解不正解を学ぶのではなく、自分の考えを人前でまとめて、伝わるように表現することを大切にするデンマークの教育は、学校教育法が変化しても変わることはないようです。

デンマーク式AO入試

デンマークの成績評価は7段階制です。-3、0、2、4、7、10、12とあり、下の-3と0は不合格を意味します。

前述したように、一般的にデンマークではこの基準に則った成績と高等学校最後の卒業試験・口頭試問の結果によって、入学できる大学と学部が決まります。たとえば医学部に入学するには、各学校やその年の入学定員数にもよりますが、平均で10は必要だと言われています。(注:芸術・音楽の専門大学には入学試験があります。)

このような成績に則った志願方式をKvote1(クウォート1)といい、8-9割の大学入学希望者がこれを活用します。それに対して、Kvote2(クウォート2)という別の志願方式もあります。日本でいうところのAO入試にあたり、教科成績だけに寄らない方式です。主に学校外でのボランティア活動や、インターン活動の成果で評価をされますが、この方式は各大学によって定員数、評価内容が異なるため、重点もそれぞれ異なります。

やり直しのきく転校事情

学校での成績評価が重要視されるこのシステムでは、必然的に教師との相性や学校環境が重要になってきます。では、学校環境が合わず中退、退学をした学生、または成績の悪い学生が高等教育へ進学したい場合はどうするのでしょうか。

たとえば日本でたびたび問題となっている小・中学校でのいじめや不登校問題。こういった場合、デンマークでは比較的簡単に子供の転校が可能です。

さらに高校を中退し、途中で就職をしたとしても、再度前回の成績に紐づけて高校へ再入学することができます。一般の高校生と年齢層がずれてしまうのが気になる場合には、再入学専門の高校へも転入可能です。

デンマークでは頻繁にギャップイヤーを取る学生が大多数で、勉強のやり直しの間口も広くなっています。日本の大学生と比べ、平均学生年齢が高いのが特徴です。

ここまで大学進学という進路を中心にお伝えてきましたが、義務教育終了後の中等教育には大学進学の進路以外に、職業教育学校、特殊教育(生産学校)があり、大きく3つの教育課程に分けられます。

すべて授業料が無料であることは勿論、一度進路を決めても、また数年後に気持ちが変われば別の教育課程に入ることが可能です。「職業に貴賤のない国」と言われるデンマークにおいて、大学へ進まずにすぐに働くキャリアと、修士課程卒業後に遅れて労働市場に入るキャリアとのあいだに、生涯収入において日本ほど大きな違いはないからこそ、選択の自由が広がります。

学歴の自由と職業選択の自由

このような進路変更に寛容な仕組みは、デンマークの教育予算をひっ迫させる要因になってもいるのですが、個人の人生設計をより柔軟なものにもしています。

たとえば、私の周りの話をすると、高校でオール12の成績を取っていた学生が大学を辞めて、美容師になるために職業短大へ入りなおす進路を選んでも、周囲からの反対はなかったそうです。大学を自主退学したあとで、自分に合った別の大学に入りなおした人も珍しくないですし、高校を2回退学し、仕事に就こうとしたけれど職業案内所の人から高校入りなおしを進められ、学生をしている友人もいます。エンジニアだったけれど歴史の勉強をしたくなって大学を入りなおし、現在は大学講師となっている先生もいます。それぞれのキャリアは多岐にわたります。

税控除後の生涯年収の差が比較的小さく、学歴による収入格差があまりないことは、人生設計の選択肢を広げます。もちろん、その決断の責任は自分で負わなければなりませんが、自ら考える能力を培う「デンマーク流」の教育がこうした個人の選択を支えているのかもしれません。

出典  (※1) デンマーク教育省/To the national test
https://uvm.dk/folkeskolen/elevplaner-nationale-test-og-trivselsmaaling/nationale-test/om-de-nationale-test

(※2) デンマーク高等教育・科学省/The admission system in Denmark
https://ufm.dk/en/education/admission-and-guidance/how-to-apply-for-a-higher-education-programme-in-denmark-1

文:田中亜季(北欧研究所シニアコンサルタント)
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