日本人の英語力、世界「53位」は『低い』のか?9年連続下落中のランキングを止めるには。

2019年11月11日に、英語能力のベンチマークのひとつである「EF EPI英語能力指数2019年版(※)」が発表されました。日本の順位は100か国中「53位」。前年の49位からランキングを落とし、9年連続の下落という結果が得られました。

アジアの25地域においては11位。6位の韓国、7位の台湾、8位の中国、10位のベトナムの後塵を拝しています。

結果だけを見れば日本人の英語能力実態に悲観論が飛び交いそうなもの。特に、インバウンド・アウトバウンドともに国主導で留学に力を入れてきた台湾が急速に英語能力を伸ばしているなか、同様に国主導の留学施策に取り組んできたはずの日本が英語力で遅れを取ってしまったことは残念と言わざるを得ません。

しかしここでは全体ランキングだけでなく、もう一歩中身に踏み込んで見てみたいと思います。すると、日本もそう悲観すべきことばかりではなさそうなことがわかります。なかでも年代別の平均スコアに着目すると、20歳までは世界平均より高いことがわかりました。

本記事では、年代別の結果を参考にしながら、日本における英語学習の方向性や意識改革の可能性について考察してみたいと思います。

※EF EPI英語能力指数(EF English Proficiency Index)=無料のオンライン英語能力測定テストEF SETの前年度受験データを元に、非英語圏の国と地域における英語能力を経年的に計測・追跡するためのベンチマークとして国際教育事業のEFが毎年発表しているもの。

日本の英語力はずっと横ばい。世界のスコアは徐々にアップ。

今回同試験を受験した100地域、230万人全体の平均スコアは53.13。アジア平均は53.00で、日本は51.51です。いずれの平均をも下回っています。

次にこれを年代別で見てみます。下の、世界と日本のスコア比較のグラフを見てみましょう。すると、世界との開きが見られるのは21歳以降で、冒頭で述べたとおり20歳までは世界平均を上回るスコアをたたき出していることがわかります。

「18~20歳」では日本が53.00に対して世界は52.99。わずかながら、日本は世界平均の上を行きます。

ところが、「21~25歳」では日本の52.45に対し世界は53.08で、少し世界平均から後退。「26~30歳」では日本の53.22に対し世界は54.36、とますます世界との差が開いていきます。

以降、「31~40歳」では日本49.48に対し世界が52.45、「41歳以上」では日本47.59に対し世界が50.79となります。

この結果から見えるのは、日本が18歳から30歳にかけて「53.00→52.45→53.22」とほぼ横ばいスコアである一方、世界平均は「52.99→53.08→54.36」とスコアが上昇しているという現象です。

言い換えれば、世界では学校を卒業し社会人としてキャリアを積む過程で英語力を伸ばしており、日本では社会人になった時点で英語力の伸びがストップしているということになります。

リーダー層の英語力不足がもったいない

また、記者発表の場でも指摘されていたのが、31歳以上でのスコアの極端な落ち方です。この年代は中間管理職から経営幹部といった人たちにあたり、その人たちがビジネス現場において、また個人のキャリアという点でも、英語力の不足により大きな機会損失を招いている可能性があります。

20歳までは世界に引けをとらなかったはずの英語力。20歳といえば、高校を卒業し大学に入るころまでです。考えるべきは、21歳以降に英語力を伸ばせない原因です。

ここで筆者の頭に浮かんだのは次の疑問でした。

「大学入学時までの学習方法は間違っていないけれど、しかしその後の大学もしくは職場における英語環境に課題があるから伸びないのか。」
「それとも、大学入学時までの学習方法が間違っているから、それが伸びない原因を作っているのか。」

理由を探るには、大学教育や企業の人材育成、また、働き方といった社会の課題もかかわるでしょう。さまざまな側面から原因を考える必要がありそうですが、ここでは自身の専門分野である留学という観点から考察を試みたいと思います。

なお、留学には留学期間やその種類、むろん英語圏以外の留学もあるわけで「留学経験=英語力」ではありません。ここでは英語圏への語学留学や正規留学のために英語を学ぶ人たちへこれまで行ってきた取材で得られた知見を中心に考察を進めたいと思います。

英語アレルギーを減らす

留学生の動向から考えると、原因は後者、すなわち「大学入学時までの学習方法が間違っているから、それが伸びない原因を作っている」ではないかというほうにやや軍配が上がります。

間違いとは何か?それは、小学/中学校時代に英語を嫌いにさせてしまっているケースが少なくないという点です。

日本人の場合、大学生になったとたんに英語が「好き」か「嫌い」かで進む方向がまるで変わります。英語が「嫌い」な学生の英語に対するアレルギー症状はなかなか強固であり、「好き」派と「嫌い」派の間の溝は大きなものとして存在します。

留学はおろか「海外」そのものに一切興味が持てない、いやむしろ嫌いだという学生。専門課程に進むころには英語の単位が必要ない学部も多くなり、英語学習は自由度の高いものになります。英語嫌いだった学生にとってはようやく苦痛から解放されるといったところでしょう。

一時期、大学生の「内向き志向」なる言葉がよく聞かれていましたが、これは現象の一側面だけを切り取って断じた偏った表現です。実際には海外へ留学する人口は増えています。本当の課題は、グローバルに関心のある人たちとそうでない人たちとの間のギャップです。

海外の語学学校で日本以外からの留学生たちに話を聞くと、外国語が「特に好きでも嫌いでもない」という意見にたくさん出くわします。とりわけ欧州や南米出身学生の場合、英語を学ぶことは単純で自然なことであり、義務でもないし、かといってラブでもありません。

もし日本人の英語力を全体的に底上げしたいのであれば、英語を使える便利さに気づいてもらうのが近道。義務感では、勉強は続けられません。

「好き」にならなくてもいいから「嫌い」になる学生を減らすために何ができるか、いま社会全体で考えてみたいところです。英語教育のなかで、いや、もしかしたら英語以外の授業においても、その科目を「嫌い」にさせるような要素はないでしょうか。

ちなみに、株式会社アデコが全国の小中学生1,000人に対し実施した調査結果によると、2019年3月の発表では、外国語科目は「嫌い」の4位に入りながらも、「好き」の上位5位には入っていませんでした。これは前年度でも同じ結果が得られています。

英語そのものより、文化を学ぶ国もある

筆者は3年前にフィンランドのヘルシンキで、ある20代女性にインタビューをしました。フィンランド語が公用語でありながら、多くのヘルシンキの人たちは流ちょうな英語を話します。なぜそんなに英語ができるのか、彼女は自分の経験から理由の一端を話してくれました。

「私の小学校では、英語を学ぶ授業というのはあんまりありませんでした。その代わり、いろんな国の文化や社会、歴史について学びます。〇年生では“アメリカについて知りましょう”という授業を英語を交えながらやり、また〇年生では英国について、そしてまた次の学年ではカナダについて、といった具合です。

文法やライティングもやったんでしょうけど・・・そっちは記憶にないわね(笑)」

方法論より意識改革。

英語力だけがキャリアを決めるわけではないし、やりたくない人までやる必要などないのかもしれません。これからはますますAIが英語力を補佐してくれるでしょう。

けれど、英語力がキャリアの選択肢を広げる側面があることは否めません。

今、大学受験への民間試験導入時期について議論が右往左往しています。どんな試験が導入されようと、入学基準を満たすためだけの勉強で終わらせないためには、英語学習の方法論以上に意識といった点について考えたいものです。

文: 若松千枝加(留学プレス編集長・留学ジャーナリスト)
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