訪日客の『おもてなし』に最も必要なことは何? ~若松千枝加(留学プレス編集長・留学ジャーナリスト)

「地震は大丈夫?」「熊本ってどこ?」4月にオーストラリアを訪れた際、何度もそう聞かれた。教育視察で訪れた西オーストラリア州・パースにいた約1週間、学校関係者はもちろん、タクシーの運転手、コンビニの店員、レストランのウェイトレスなど、遠く日本の熊本で起きた地震について誰もが一言の声をかけてくれた。最年少は中学生だ。
 
オリンピック・パラリンピックの2020年東京開催が決まってからというもの、日本では外国語教育や国際交流、海外留学の促進に積極的に取り組む機運が一気に高まった。しかし、どんなにお金をかけた施策よりも、誰でもできる「大丈夫?」の一言に最大の「おもてなし」効果があるのではと筆者は改めて考えた。
 

「最もフレンドリーなオリンピック」開催国オーストラリア

2000年に開催されたシドニーオリンピック・パラリンピックには、環境に配慮するという意味でのスローガン『グリーンオリンピック』の陰で、市民の間に裏スローガンがあった。それが『世界で一番フレンドリーなオリンピック』だ。
 
もとよりフレンドリーはオーストラリアのお家芸だ。シドニーは2015年の「観光客にフレンドリーな都市ランキング」(米国の旅行雑誌「コンデナスト・トラベラー」調べ)で1位にランクインしているし、メルボルンは2014年に1位となっている。英経済誌「エコノミスト」の調査部門「エコノミスト・インテリジェンス・ユニット」の「世界で最も住みやすい街ランキング」8位と発表されたパースは『フレンドリーシティ』の異名を持つ。
 
パースの語学学校
▲パースの語学学校『フェニックス』で出くわした全生徒が集まるBBQランチ。この中庭に国境の壁はない。
 
前述の「地震は大丈夫?」の効能は二つある。ひとつは単純に嬉しいということだ。筆者は被災していないが、関心を持ってくれていること、それに対して口に出して心配してくれたことで親近感を覚える。
 
もう一つの効能は、会話が生まれるということ。東京出身の筆者は、「地震は大丈夫?」を聞かれるたびに、被災地は日本の南にあって東京からは遠く離れていること、熊本はラーメンがとても美味しくて日本には地方それぞれにラーメンの文化があること、くまもんを知っているか・・・などの会話をその都度行うことになった。
 

お節介に必要なほんの少しの勇気

東京都ではオリンピック・パラリンピックに向けて「外国人おもてなしボランティア育成講座」を開催している。外国語とおもてなしをベースにしたこの講座は応募者が大層多いとみえ、同講座のホームページで発表されている平成28年3月の受講者抽選倍率平均は約11倍だ。
 
この倍率から考えても、日本人もフレンドリーに接したいという本音がうかがえる。日本人はおしなべて親切であり、“kind”は日本人の気質を表現する言葉として、世界中でしょっちゅう耳にする言葉だ。
 
ただ、親切を行動に移すのに、あと少しの自信と勇気が欲しいのだろう。それが「外国人おもてなしボランティア育成講座」受講希望者の数に表れている。実際、困っていそうな外国人を街で見かけても、「大丈夫?」の一言をかけるという人は必ずしも多くない。
 
この件について、3月に都内の大学生グループと留学について話し合う機会があった。彼らは全員留学経験があり、異文化理解についての関心も高い。将来はそれぞれ、グローバル職種を志す就職活動をしたり、海外起業に向けて動きたいと考えている。
 
しかし、そんな類の学生たちでも、外国人に声をかけるかどうかは躊躇してしまうと言う。グループの一人が、ジュースの自販機の前でもたついている外国人を見かけたが声をかけなかったという体験を話した。他の学生からは「助けてやれよー」とやいやい言われたが、彼は「だってもう少しでできるところかもしれないし、自分でできた達成感だって嬉しいじゃん。」と語り、仲間から「言い訳してる!」とつっこまれる羽目となった。
 
グループのうちの一人はこう言った。「実際に助けになったかどうかはどっちでもいいんだよ。日本人が声をかけてくれたってことが大事なんだよ。」
 
彼の発言は的を得ている。そう、おもてなしとは、この「お節介」だ。お節介は、この大学生たちのように外国語や異文化交流に積極体な若い世代に限らず、老若男女・バックグラウンドに関係なく誰でもが発揮できる。
 

外国人にひたすら日本語を話しかけて、なぜか通じるタイプの人

筆者は常日頃、ある「おじさん」を国際交流のお手本と考えている。推定年齢65歳~70歳のこのおじさんに出くわしたのは都内の地下鉄大江戸線。降車駅で迷っていた南アジア系と思しき若者3人との国際交流現場をご紹介したい。
 
おりるべき駅が近づくにつれ「次かな?」「次かな?」とそわそわし始めた彼らに、おじさんは話しかけた。「どこ?どこでおりるの?何駅?」日本語のわからない少年たちはキョトンとしているが、おじさんは構わない。「日本の駅、難しいからね!で、どこ行きたいの?」
 
助けてあげようというおじさんの意志が通じたようだ。少年たちは「ナカ」「ナカ」と言いながらスマホ画面をおじさんに見せ始めた。実はそこは、「ナカ」と名のつく駅が3つ連なる箇所。中野坂上・東中野・中井の三駅が続くため、「ナカ」のヒントだけではおじさんも対応できない。
 
おじさん「あ~!ここらへんの駅、ぜんぶナカがつくのよ。3つもあって困っちゃう。もう一回言って。あーーー、ナカノ?そりゃ東中野かねえ。」
 
しばらく続いた「ナカ」問答の末、少年は「・・・・ドーモ、アリガトゴザイマシタ・・・」と言って、東中野の一つ手前、中野坂上でおりていった。
 
正しい降車駅はわからずじまいだ。少年たちは目的以外の駅で降りてしまったかもしれない。しかし、またどこかで誰かに声をかけてもらい、目的地に無事ついて、このおじさんのことを誰かに話して笑ってくれたら、なんだか嬉しいではないか。
 
余談であるが、今朝、仕事で西オーストラリア州エディス・コーワン大学の広報担当者と、オーストラリア人の『フレンドリー』について話をする機会があった。世界中で留学生誘致の広報活動を行う彼女が言うには「日本人は世界のどこの国の人たちよりもフレンドリーよ。日本の次がアフリカね。」とのこと。
 
東京オリンピック・パラリンピックは前途多難で、招致活動不正疑惑が持ち上がった今、開催自体が不透明だ。もし無事にその日を迎えたら、地下鉄のおじさんのようにお節介を発揮したい。熊本を心配してくれた人たちのように「大丈夫?」「大丈夫?」と声をかけたい。日本は世界に向けて「おもてなし」を約束したのだから。
 
文: 若松千枝加(留学プレス編集長・留学ジャーナリスト)
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