留学中の怪我や病気。そのときの不安は特に大きなものではないでしょうか。言葉はもちろん「制度は?」「料金は?」と考え始めたらきりがありません。今回はイギリスを事例に留学生が知っておきたい医療制度についてお伝えします。
国民健康保険~NHS~
イギリスの医療はNHSと呼ばれる国民健康保険で成立しています。これはイギリス政府が運営しているもので、全イギリス国民が対象となっています。イギリスは地方分権(イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランド)が施行されているため、もちろんこの医療制度も地方によって少しずつ異なりますが、基本的には医療費(診察から手術まで!) は無料で処方箋も一律約8 ポンドで医療を受けることができます。これは公立の病院だけの適応で、私立の病院では高額な医療費が必要となります。
嬉しいことに、半年以上の留学ビザを習得している留学生であれば、この制度は 適用されます。ビザ申請のときにNHSへの加入届けを同時に提出することで、1つ不安は解消されます。
NHSを使うには?
日本と大きく異なる点の1つは、いきなり病院にいって診察という流れではないところです。イギリスの制度では、自分が使う病院に自分が患者であるという登録をしなくてはいけません。ほとんどの場合は自宅の最寄りの病院をかかりつけ医(GP)として登録します。
この登録のためにはGPに電話、もしくは直接GPに行き、書類(住所や注射歴)を記入し、やっと患者としての権利を得ます。ごくまれに、GPの患者数が多すぎるために登録を拒否されることがありますが、だいたい遠くない距離にほかのGPがあるのでそちらで登録することができます。
▼筆者のGPである校内の病院
病気になった!病院に行こう!・・・では遅いNHS
かかりつけ医はあくまで専門医ではありません。NHSのおかげで医療費が無料であるイギリスの病院には多くの患者さんが来院し、3時間以上待たされることもあります。 高熱で来院し、待ち、やっと診察してもらえると思っても、整形外科の先生しかいないといわれることもしばしば。また、症状によっては看護師さんによる簡易診察で終わることもあります。
では予約すればいいという話になります。予約をすれば専門医に見てもらえますが、その予約も「1か月後なら空いてる」といわれてしまうことも日常茶飯事。1か月後まで風邪ひいているのか…?と日本人なら思わずにはいられません。
大きな病院にかかるにはGPの紹介状が必要になります。ちょっとでも風邪ひきそうな予感がしたらまずGPに行って予約を取りましょう。
▼病院の待合スペース。電光掲示板に名前と診察室が表示されます。
薬事情
GPで処方箋をだされたら、日本と同様、隣接する薬局で薬を出してもらいます。このときの薬代はイングランドでは一律8.4ポンド (ほかの3地方は無料) 。しかし、16歳以下や60歳以上の人、18歳までの学生、そのほか特定疾患のある人は無料になるので、実際にこの薬代を払っている人は全体の10%にも満たないと言われています。
また、イギリスでは市販のお薬をとても安価に手に入れることができます。インフルエンザになっても市販の薬で治ると信じている人も多く存在し、実際診察後に「処方箋だすよりこの薬買って飲んだ方が早いよ!」とメモをもらったこともあります。
▼1番有名な薬局兼ドラッグストアのブーツ(Boots)
▼薬局以外でも買える市販薬
GP以外の病院と保険
GPが公立病院なのに対して、数は多くはないけれど私立の病院も存在します。それらは病院側が好きな値段に設定できるため、かなり高額な値段が請求されることがあります。しかし待ち時間も少なく、専門医にすぐに診察してもらうことを考えるとそれらを選びたくなります。留学生ならば海外留学生用の保険で賄えることがほとんどなので、緊急の場合は私立病院に電話してかけこむこともできます。
また、ロンドンには日本人の医師がいる病院も数か所あります。もちろんそれらも私立の病院扱いになりますが、つらいときに日本語で病状を話して理解してもらえるので多くの日本人がお世話になっています。
多少のお金は払うことですぐに専門医に診察してもらえる日本と、無料ではあるけれどなかなか診察にたどりつけないイギリス。どちらがいいかはわかりませんが、留学先で体調を崩したときはとても心細くなります。これらの制度を理解していること少しでも不安を解消し、早めの治療ができるよう対策をしておきたいところです。
文:山下詩央里(イギリス大学留学生)
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