ドイツはEUで最も経済力の高い国であり産業界のリーダーとして世界を牽引しています。歴史上重要な科学者、芸術家の出生地でもあり、世界中から留学生が集まります。しかし、日本と比べて治安が心配という声も少なくありません。ドイツの治安は本当に悪いのでしょうか。
安全に留学を進めるためにも、その都市の特色や治安について知っておく必要があります。今回の記事ではドイツの都市に居住する日本人に取材をもとに現地の治安について解説していきます。
この記事を書くにあたって、多くの方に情報提供をいただきました。
・ベルリン: キKUサNさん、黒柴さん
・ミュンヘン: SE0822さん、Uさん
・フランクフルト: kuma moonさん
・ハンブルク: Mariさん
・ケルン: shotacoさん
・デュッセルドルフ: Tellerさん、Yumiさん
・ドルトムント: インフォマリカりんさん
ご協力ありがとうございました!
ドイツ留学に興味が湧いたら
数字で見るドイツの治安
まずは「犯罪率」のデータをもとに、各都市の治安について解説します。
犯罪率の高い州/低い州
ドイツは世界でも比較的治安が良い国のひとつに数えられ、イギリスのエコノミスト紙が発表する世界平和度指数では144カ国中22位 (日本は9位)*1 と上位にランクインしています。一方、犯罪率でみると、10万人あたりの犯罪件数 (犯罪率) は131カ国中41位 (日本は9位)*2 であり、犯罪率そのものは低くありません。
*1 Institute for economics and peace (2018) GLOBAL PEACE INDEX 2018
*2 World Population Review「Crime Rate by Country 2021」
次は州ごとに犯罪率を見てみましょう。
ベルリン州が最も犯罪率が高く、ハンブルク州とブレーメン州が続きます。特にベルリン州はドイツ全土での平均の2倍もの犯罪率です。


それでも日本より高い!
ドイツ国内ではバイエルン州とバーデン・ヴュルテンベルク州で最も犯罪率が低いです。しかし、バイエルン州でさえも日本と比較すれば犯罪率は圧倒的に高いです。

この州での犯罪率は日本でも最も犯罪率の高い大阪府 (776件/10万人) の約4倍にあたります。
さらに、どれだけ治安の良い都市でも危険な地域 (No-Go Area) は必ず存在します。犯罪件数が少なくても自分が被害に遭う可能性は依然高いので、滞在中はより一層気を引き締める必要があります。
ドイツでの防犯対策の基本
ドイツで生活するにあたって必要な防犯対策を解説します。
貴重品は肌身離さず
貴重品はウェストポーチに入れて前にかけるなど、スリ対策を心がけましょう。ファスナーのないバッグは特にスリに遭いやすく、リュックサックであってもナイフで切り裂かれて盗まれる事件が発生しています。
外を歩くときは姿勢に注意
猫背だったり、スマホを見ている状態ではスリに狙われやすくなります。背筋をピンと伸ばして堂々と歩きましょう。スマホを使用する時は壁を立ち止まって壁に背を付けるなどの対策も大切です。
危険な地域や通りには絶対に近寄らない
中央駅周辺やクラブの多い地域など、治安の悪い地域は出来る限り避けてください。普段から大学の先輩、RedditやQuoraなどのSNSから危険な地域の情報を集めることも大切です。用事があるなら昼の時間帯に行ったり、複数人で行くなどの対策をしてください。
電車でも油断大敵
置き引きやスリが多発しています。特に電車のドアが開くタイミングでスリに盗まれる事が多いです。また祭りやサッカーのシーズンでは酔っ払いが乗っていることがあるので、夜間の乗車は避けてください。
日本大使館からのメールはこまめにチェック
住んでいる地域のデモや暴動などの重要な情報がメールで配信されています。普段からこまめにチェックし、近寄らないようにしてください。他にもその地域の危険情報や日本人を対象にした犯罪の情報が掲載されている「安全の手引き」も発行しています。
観光地や祭りはいつもより警戒する
人が多く集まるタイミングではスリや暴行などの犯罪が多くなります。特に祭りでは女性を対象にした性犯罪が頻繁に発生しています。参加する際は複数人で行ったり、暗くなる前に帰るなどの対策を心がけてください。
安全はお金で買う
大学寮は基本的に安全な地帯にあるため、可能であれば寮に下宿するのが安全です。もし寮の応募に落ちた際は、多少高くなってしまっても、安全な地域を選ぶことが大切です。大学のマネージャーや先輩に相談して物件を探しましょう。
犯罪に遭ったときの対応を調べておく
どれだけ警戒していても、犯罪に巻き込まれる可能性はゼロになりません。盗難などに遭った際に、どう行動すべきかは留学前に知っておくべきです。
筆者もベルリンでノートパソコンを盗まれました。その際の警察への通報や取り調べ、保険会社への連絡などはこちらの記事に詳しくまとめましたので、ぜひご覧ください。
海外で盗難にあったときの対処法~警察、大使館、保険会社等(ドイツ編)
▼冬場は昼でも暗いので、人通りの少ない道に注意

現地滞在者が語る各都市の治安
それぞれの都市に在住する日本人への取材をもとに「危険な地域」「生活する上で気をつけていること」の2つを解説していきます。
ベルリン

ベルリンのこの地域は危険!
・クロイツベルク区: ナイトクラブが多く雰囲気が悪い。薬物の売人がいるので夜間は要注意。
・ノイケルン区: ドラッグの売買が多く、ディーラーに声をかけられることも。
・ミッテ区: 観光客を狙ったスリに注意。
ベルリン市内でもクロイツベルク区とミッテ区が特に犯罪数が多いです。また、取材に協力してくださったキKUサNさんはヴェディング区の駅構内でひったくりの被害に遭ったそうです。
ベルリンで生活する上で気をつけていること
一見平和に見える地域でも注射や大麻の吸い殻などが落ちていることがあります。見つけた際はすぐにその場を離れるようにしてください。また、路地裏や死角のある通りはできる限り避けてください。
ベルリンを含めほとんどの都市は街灯が少ないため、日が沈むとすぐに暗くなります。日没の時間を踏まえた行動が必要です。どうしても夜間に外出しなければならない場合は、貴重品を肌見離さず携帯したり、大通りを選ぶなど防犯対策を心がけてください。
ミュンヘン

ミュンヘンのこの地域は危険!
・中央駅周辺: 特に西部から南部にかけてホームレスや薬の売人が多い。
・ノイパーラッハ区, アムハート区, ハーゼンベルグル区: 1990年代まではミュンヘンの中で最も危険な地域。現在は犯罪は少なくなっているが、通行の際は警戒が必要。
ミュンヘンは大都市の中で特に安全な部類に入りますが、中央駅周辺は他の地域と同様に危険です。構内と出口の前はホームレスが多くたむろしているので注意してください。
ミュンヘンで生活する上で気をつけていること
街は近代化されており、大都市の中でも犯罪率が低いです。一方で、警察を装い子供を攫ったり銃で恫喝するなどの恐ろしい事件が起こっていますので、十分に注意してください。またデモが多い地域でもあるので、当日は迂回するなど対策が必要です。
フランクフルト

フランクフルトのこの地域は危険!
・中央駅周辺: 昼間からホームレスや薬の売人がたむろしている。フランクフルトでの犯罪はここに集中しているため、必要がない限り速やかに離れるべき。
・ザクセンハウゼン区: フランクフルトで最も危険なエリア。
・タウヌス通り, ニッダ通り, ニッダ通り, エルベ通り: 中央駅近くの歓楽街です。ナイトクラブや風俗店が多くあり、夜間は絶対に近づかない。
・カールシュタット駅: 暴行事件が多発している。比較的明るい時間帯であっても女性を狙ったひったくりが発生しているため、警戒が必要。
・フランクフルト空港: 日本人を対象にした荷物の置き引きや寸借詐欺が発生している。
中央駅周辺に危険な地域が集中しています。置き引きやスリがほとんどですが、暴行や殺人も発生しています。ぼったくりバーのようなものも存在するので、客引きは必ず無視してください。
フランクフルトで生活する上で気をつけていること
夜間に歓楽街には近づいてはいけません。どうしても立ち寄る必要がある時は、複数人での行動を心がけてください。それでも危険はありますので、お酒を控えるなど警戒心を緩めないことが大切です。
ハンブルク

ハンブルクのこの地域は危険!
・レーパーバーン通り (ザンクトパウリ区): ドイツでも特に盛んなクラブ街であり非常に危険。売人やホームレス、酔っぱらいなどがたむろしており、1人での訪問は厳禁。
・シュテルンシャンツェ区: 盗難被害が多く発生している。
・ザンクトゲオルク区: 昼夜問わず犯罪が発生している。
・中央駅周辺: 東口にホームレスが多くたむろしている。
ハンブルクで生活する上で気をつけていること
港町であることもあり、売春宿などが多く存在します。女性を狙ったナンパも多く、話しかけられた際はしっかりと断ることが大切です。夜間での声掛けの場合は特に警戒すべきです。
素晴らしい街並みと大学のある地域ですが、ベルリンに次いで犯罪率の高い都市でもあります。犯罪に巻き込まれないためにも、常日頃からの防犯対策が大切です。
ケルン

ケルンのこの地域は危険!
・アルトシュタット区: ケルンで最も危険な地域。
・フリーゼンプラッツ区: 麻薬の売人やホームレスが多い。
・エーベルトプラッツ区: 同様に麻薬の売人やジャンキーが多いので要注意。
・エーレンフェルト区: クラブが密集しているため、夜間は特に注意。
ケルンの場合、ライン川の東側に治安の悪い地域が集中しています。また冬から春にかけて雪解け水による増水に伴う洪水がまれに発生します。洪水警報が発令された際はライン川から離れた地域に避難してください。
ケルンで生活する上で気をつけていること
中央駅およびケルン大聖堂周辺は人混みが多く、スリに遭いやすいです。またケルン警察はエーベルトプラッツやボックレミュントを含め25箇所も危険な地域があると発表しています。
また2015年のニューイヤーイベントでは女性に対する大規模な性犯罪が発生する事件がありました (ケルン大晦日集団性暴行事件)。被害届が出ただけでも516人以上もの女性が被害に遭っており、逮捕されたのはたったの5人だけです。他の都市でも同様ですが、夜道で急に話しかけられた場合は強い態度でNOと言う姿勢が大切です。
デュッセルドルフ

デュッセルドルフのこの地域は危険!
・中央駅周辺: デュッセルドルフで特に注意すべき地域。売人やスリに要警戒。
・アルトシュタット区: 人混みに紛れてスリが多発。
デュッセルドルフで生活する上で気をつけていること
デュッセルドルフは比較的犯罪数が少なく、日中で犯罪に遭うことは少ないです。しかし、夜間は他の都市同様非常に危険です。またU-Bahn (地下鉄) でのひったくりが多発しています。
比較的安全な地域ではありますが、フリンガーン・サウス、ライスホルツ、ホルトハウゼンなど治安の悪い地域も少なく有りません。
ドルトムント

ドルトムントのこの地域は危険!
・ノルトシュタット: ドルトムントで最も麻薬取引が横行しており、最も危険な地域。
・ドルストフェルト: 極右勢力 (ネオナチ) の活動が激しく、週末には過激なデモが発生している。
・カルク区: 強盗や性犯罪の被害が多い地域。過去に殺人も発生している。
ドルトムントでは中央駅の北側に治安の悪い地域が集中しています。大学や中心街のある南側は比較的治安が良いので、下宿先を探す際の参考にしてください。
ドルトムントで生活する上で気をつけていること
北部地域は現地人でも油断できないほど治安がよくありません。立ち寄る際は夜間を避け、明るい内に離れるようにしましょう。またアジア人への差別被害が発生しています。暴言が主で暴力などの被害は発生していませんが警戒が必要になります。
ドイツ留学の治安対策・最優先は危ない場所や時間を避けること
「君子危うきに近寄らず」とのことわざもあるように、留学生も事前に危険な地域や時間帯を把握しておき、行動を律して犯罪に遭う確率を下げることが大切です。
さらにSNSや市のホームページから最新の情報を入手して、安全な留学ライフにしていきましょう!