シンガポールでの英語留学に、ヨーロッパが注目しているようだ。
アジアで『英語』を学べる留学先といえば、シンガポール、フィリピン、マレーシアなどが挙げられる。アジアで最も古くから外国人向け英語教育を行ってきたのがシンガポールだ。近年は、格安の留学費用とマンツーマンレッスンを核に独自に開発された集中特訓スタイルで留学人口を伸ばしてきたフィリピン留学に隠れ、影が薄まっているようにも思えたがどうやらそういうわけでもないらしい。
2016年春の最新事情をレポートする。
ヨーロッパの学生からの注目、「多様性」求め増える
筆者が取材した複数の語学学校のうち、着目したのは新興校ではなく、地元に根差して英語教育を行ってきた2校から得られた情報だ。1971年創立のインリンガ、2009年創立のEF、両校ともにシンガポールの「生徒の目的と国籍が変わってきている」と話した。
従来、シンガポールの語学学校には、駐在員やその家族の語学教育を担う側面が強くあった。現在もそれは変わらないが、一方でヨーロッパの若い学生たちがシンガポール英語留学に来るようになったと言う。
EFの学校長は次のように語った。
「イタリア、北欧、ドイツ、フランスからの学生が増えてきました。彼らの多くはプロフェッショナルなニーズを持ち、そしてシンガポールの持つ多様性を求めています。
以前からシンガポールには、アジア進出に関心のある企業のビジネスマンが学びに来ていました。しかし、今、彼らの目的はアジア進出とは限りません。
たとえば、最近イタリア人の銀行家が留学してきました。彼の留学目的はシンガポールの多様性を学ぶことです。彼の銀行がアジアでこれから展開するためではなく、既にイタリアにおける彼の銀行が多様な人材で構成されている。彼はダイバーシティを肌に浸透させることで、イタリアへ戻ったときのアドバンテージにしたいのです。
また、若い学生のなかには、名門シンガポール大学への進学を志す人も目立ってきました。学術的評価のみならずビジネス界からも評価の高いシンガポール大学は、今、ヨーロッパの学生にとっても目標のひとつです。シンガポール大学は以前から難関大学でしたが、これほどヨーロッパから憧れられたことはなかったのではないでしょうか。」
少し補足すると、EF校はヨーロッパ全域に強い拠点を持つ教育機関グループのため、それが『ヨーロッパ学生の存在を際立たせているのでは』と見る向きもあろうが、だからこそヨーロッパ出身学生のニーズの変遷が見えてくる。
▼欧州出身学生が目立つEFシンガポール校のキャンパス
▼クラーク・キーに位置するキャンパスには屋上バルコニーが。多国籍の学生が集ってバーベキューをすることもある。
また、インリンガの学校長は次のようにも語っている。
「ヨーロッパの学生にとって、シンガポールの魅力は英語と中国語(マンダリン)を同時に習得できることです。当校には午前中に英語を、午後に中国語を学ぶコースがありますが、非常に好意的に受け止められていますよ。」
韓国人の注目がシンガポールへ向き始めている
欧州だけではない。もうひとつ新鮮な驚きは韓国人の動きだ。
インリンガの学校長と学校スタッフは次のように語った。
「フィリピン留学は韓国人のアイデアにより生まれ、発展した留学スタイルです。近年は多くの韓国人がフィリピンへ行くようになり、シンガポールへ来る韓国人留学生は減少していました。しかし、今年に入ってから韓国人がまたシンガポールへ来るようになりました。
理由はシンガポールの持つダイバーシティです。当校に今年に入って在籍している韓国人留学生の複数が、次のように言っています。『フィリピンに留学すれば、集中レッスンを受けられる。初級者にとっては良いでしょう。しかし、だんだんと物足りなくなります。いろんな国の人と話したいのです。』と。」
▼オーチャード・ロードに位置するインリンガ。教室内の撮影はできなかったが、マンダリンのクラスも行われていた。
EF校でも韓国人留学生については同じ傾向にあると言う。
現在、シンガポールの語学学校ではシーズン・学校ごとの違いはあれど、日本人の割合は約10~20%。各校には40~60カ国から来た留学生が在籍している。一方フィリピンの場合、留学生の多くを韓国人と日本人が占めているため、多様性といった面ではシンガポールとの違いがおわかりいただけるだろう。
ちなみに、現在シンガポールにいる日本人語学留学生たちがシンガポール留学の目的として語るのが『多様性』、そして『シンガポール就職』なのだそうだ。
フィリピン留学ブームは終わるのか?
以上、シンガポール語学留学の最近の流れについてご案内した。
先述のストーリーから、そろそろフィリピン留学がピークをむかえ今後はその人口がシンガポールに流れるに違いない・・・などという短絡的な見方は当たらないと考えている。むしろ、大きな話題を呼んだフィリピン留学が教育の場として成熟してきたことによって、留学先の棲み分けが顕著に進むと考えるべきである。また、昨年くらいからフィリピンの語学学校が、韓国人・日本人以外の留学生誘致に動いているという話も聞いている。
目的によって留学先を適切に選ぶ。費用を抑えて集中特訓をしたければフィリピンへ、多様性を求めたければシンガポールへ、そして今後の担い手としてマレーシアが加わる。教育の場としてのアジアが面白くなってくる時代である。
文: 若松千枝加(留学プレス編集長・留学ジャーナリスト)
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