持続可能な未来のための重要な学問、環境学。環境問題は現代社会のもっとも大きな課題のひとつと言っていいでしょう。
環境学は自然科学や社会科学との連携が深く、多角的な観点から学び、解決に取り組みます。将来は国際機関や政府機関、教育機関などのほか、エコビジネスや再生可能エネルギーに関わるスタートアップや起業といった多彩なキャリアにつながります。
この記事では、海外大学で学ぶ環境学の概要や学ぶメリット、卒業後の仕事を解説します。環境学の世界大学ランキングもご紹介し、大学の選び方のヒントもご紹介します。
「地球の未来」に関心を持ち、その解決に貢献したいと考える学生や社会人の方に必見の内容です。ぜひ参考にしてください!
環境学とは?
環境学で学べること
環境学では主に次のようなテーマを学び、複雑な問題を解決するためのアプローチを深堀りします。
- 自然現象の理解:地球科学や生態学を通じて環境の基礎を理解する。
- 社会的な見方:地域文化や経済学を通じて環境問題の社会的な側面を探る。
- 解析技術:環境モニタリングやデータ分析の技術を学び、問題解決のスキルを養う。
授業例と大学/大学院の違い
環境学とひとことで言っても、中身は多岐に渡ります。学生それぞれに興味の矛先が違うのが、環境学部の特徴です。
そのため、他学部の科目を横断的に組み合わせて、学生主体のコースプランを作るタイプの大学も少なくありません。
ここでは環境学専攻のイメージをつかむための参考として、イギリスのヨーク大学のカリキュラムを例としてご紹介します。大学学部課程と大学院修士課程それぞれの科目もご紹介しますので、その違いもつかんでみてください。
ヨーク大学環境科学学士号プログラム
Environmental Science (BSc) – Undergraduate, University of York
※英国の大学は原則として3年間です
1年 環境科学の基礎を学び、次年度のより高度な内容への基礎を固めます。 |
環境化学 環境、開発、社会生態学原理 グローバル課題入門 研究スキル入門 地球の過去・現在・未来 アカデミック・インテグリティ |
2年 様々な主要科目を履修し、環境科学の知識を深めます。その後、オプション科目を通じて自分の興味に合わせた学位取得を目指します。 |
▼主要科目 気候科学応用環境科学変化への取り組み研究スキルとプロジェクトデザイン ▼オプション科目(下記から2つ) メガシティと都市化 生態系管理と保全 食・空間・文化・社会 気候変動への適応と緩和 地理情報システム コードによる環境問題の解決 |
3年 独自の研究プロジェクトとオプション科目でさらに専門性を高めます。 また、オプション科目の1つを選択科目に置き換えることができ、広く学ぶことができます。 |
▼主要科目 研究プロジェクト 環境科学の最前線 サステイナビリティ・クリニック ▼オプション科目(下記から2つ) エネルギー転換と低炭素の未来 大気と海洋科学 生物多様性と社会汚染 モニタリング評価と管理 土地利用の変化と管理 グローバルな視点 英国の環境問題への取り組み(フィールドコース) ▼選択科目例 《学際科目》 様々な学部の教授陣が指導し、他学部の学生と共に学びます。(例) ・気候危機アクションラボ ・食の未来 ・サステイナビリティ・クリニック 《語学科目》 アラビア語・中国語・フランス語・ドイツ語・イタリア語・日本語・ラテン語・ロシア語・スペイン語 |
大学院課程からは学部課程よりも専門性がより高まります。
イギリスの大学院は、授業を受講しながら専門性を高めていくTaughtと、学生個別に追求したいリサーチ主体のResearchに課程がわかれます。ここではTaughtコースを例としてご紹介します。
ヨーク大学では、次のようなコースを開講し、より深く探求していきます。(カッコ内はとれる学位)
ヨーク大学修士課程(Taughtコース)
Taught Masters – Department of Environment and Geography, University of York
・企業のサステナビリティと環境管理 (MSc)
・データサイエンス(科学) (MSc)
・環境経済学と環境管理 (MSc)
・環境科学と環境管理 (MSc)
・環境サステイナビリティ教育とコミュニケーション (MSc)
・サステイナビリティ科学 (MSc)
・サステイナビリティ学(MA)
・持続可能なビジネス リーダーシップ、イノベーション、マネジメント (MSc)
たとえば上記のうち「企業のサステナビリティと環境管理」コースに進むことにした場合には、次のような科目を履修します。(なお、イギリスの修士課程は原則として1年間で、このコースも1年間で修了します。)
▼主要科目 ビジネスと環境 環境マネジメントの実践 企業の持続可能性 研究スキルと方法 ▼オプション科目 戦略と戦略的マネジメント グローバルな文脈における人材の指導と管理 マネジメントの現代的課題 マネジメント、ガバナンス、社会 倫理的マーケティングと持続可能性 国際政治経済とビジネス 国際ビジネスと新興市場 倫理とサステナビリティ報告 |
環境学の魅力と向いている人
環境学は持続可能な未来を築くための道を切り開く学問です。そのために自然環境と人間社会のつながりを理解し、多角的な知識と視点を養うことができます。
▼こんなことに興味がある人に向いています
・実際の環境課題に具体的に取り組みながら、直接環境問題に関わりたい
・生物学、経済学、政治学など、幅広い知識や他分野と連携しながら学びたい
・地球規模の課題解決に貢献したり、社会的影響力のあるキャリアに進みたい
環境学、なぜ必要?
現代社会では気候変動、生態系の破壊、資源の枯渇といった問題が次々と表面化しています。
環境学はこういった課題に、科学や倫理的な視点を持って向き合い、持続可能な社会を目指すために不可欠な分野です。
国際的な政策といった大きな領域でも、地域社会といった身近な世界でも、それぞれに重要な役割を果たす分野です。
海外大学で環境学を学ぶメリット
理論と実践の融合
環境学の学習では、基礎的な理論に加えてフィールドワークや実地調査を通じた実践的なスキルを学べます。
例えば、地域での水質調査や生物多様性の評価プロジェクトなど、理論を現場で応用する力が養われます。
最新技術の活用
環境モニタリング技術や再生可能エネルギーの研究、地理情報システム(GIS)の活用など、最先端の技術を学ぶ機会が豊富です。
グローバルな視野を広げられる
環境問題は国境を越えた課題であり、国際的な視点が不可欠です。
海外大学で環境学を学ぶことで、多文化的な視野を広げられます。環境は単に科学的な視点だけでなく、そこに暮らす人の文化や宗教、社会背景へのリスペクトや理解も不可欠です。
世界中の学生や教授とのネットワークを通じ、国際人としての人間力を高めることもできます。
環境学を学べる大学
世界大学ランキング
ここでは、世界大学ランキングを毎年発表しているQSによる環境科学(Environmental Science)ランキングTOP50をご紹介します。
QS World University Rankings for Environmental Sciences
1 | ハーバード大学(アメリカ) |
2 | ヴァーヘニンゲン大学(オランダ) |
3 | オックスフォード大学(イギリス) |
4 | マサチューセッツ工科大学(アメリカ) |
5 | スタンフォード大学(アメリカ) |
5 | カリフォルニア大学バークレー校(アメリカ) |
7 | スイス連邦工科大学チューリッヒ校(スイス) |
8 | ケンブリッジ大学(イギリス) |
9 | シンガポール国立大学(シンガポール) |
10 | 清華大学(中国) |
11 | インペリアルカレッジロンドン(イギリス) |
12 | ブリティッシュコロンビア大学(カナダ) |
13 | デルフト工科大学(オランダ) |
14 | 南洋理工大学(シンガポール) |
15 | 北京大学(中国) |
16 | カリフォルニア大学ロサンゼルス校(アメリカ) |
16 | イェール大学(アメリカ) |
18 | マギル大学(カナダ) |
18 | クイーンズランド大学(オーストラリア) |
20 | コロンビア大学(アメリカ) |
21 | トロント大学(カナダ) |
22 | メルボルン大学(オーストラリア) |
23 | カリフォルニア大学デイビス校(アメリカ) |
24 | ミシガン大学アナーバー校(アメリカ) |
25 | カリフォルニア工科大学(アメリカ) |
25 | ストックホルム大学(スウェーデン) |
27 | コーネル大学(アメリカ) |
28 | スイス連邦工科大学ローザンヌ校(スイス) |
28 | ルンド大学(スウェーデン) |
28 | ユニバーシティカレッジ・ロンドン(イギリス) |
31 | 東京大学(日本) |
31 | ワシントン大学(アメリカ) |
33 | ニューサウスウェールズ大学(オーストラリア) |
34 | マンチェスター大学(イギリス) |
35 | プリンストン大学(アメリカ) |
36 | デンマーク工科大学(デンマーク) |
37 | エディンバラ大学(イギリス) |
38 | テキサスA&M大学(アメリカ) |
39 | ジョージア工科大学(アメリカ) |
39 | エクセター大学(イギリス) |
39 | 香港大学(香港) |
42 | ユトレヒト大学(オランダ) |
43 | デューク大学(アメリカ) |
44 | オーストラリア国立大学(オーストラリア) |
44 | サンパウロ大学(ブラジル) |
46 | ゲント大学(ベルギー) |
46 | 香港理工大学(香港) |
46 | リーズ大学(イギリス) |
49 | コロラド大学ボルダー校(アメリカ) |
50 | メキシコ国立自治大学(メキシコ) |
大学をどう選ぶ?
大学ランキングはさまざまな機関が独自の基準を用いて算出しています。そのため上記でご紹介したQSのランキングのみが正解というわけではなく、他のランキングを見ればまったく別の大学がランクインしていることもあります。
ランキングは大学選びのひとつの目安にはなりますが、それ以外の要素も検討して志望校を選びましょう。
▼検討したい要素
何に力を入れているか | 「再生可能エネルギーに強い」「水資源管理に強い」など、大学にはそれぞれに力を入れている分野があります。 |
立地 | 海洋学や生態系保護、都市環境など、大学のなかには、そのキャンパスの立地を活かして独自の強みを発揮している大学もあります。 |
難易度 | 私立/公立問わず、ほとんどの総合大学に環境学部があります。これまでの成績や語学力も加味した大学選びも大切です。 |
授業料/奨学金 | 留学費用を安く抑えたいと考えている人の場合、奨学金制度が充実しているか、授業料はどれくらいか、しっかりと比較検討する必要があります。 また、大学の授業料自体が国の方針によって低く抑えられているEU諸国や、授業料水準がリーズナブルなアジアなど、国によっても授業料は異なります。 |
大学か大学院か | 進学の組み合わせは多様にあります。 ・日本の大学→アメリカの大学院 ・シンガポールの大学→中国の大学院 ・オーストラリアの大学→イギリスの大学院 ・カナダの大学→就職 専門性や将来の目標、予算なども加味しながら検討しましょう。 |
卒業後のキャリア
一般企業
企業にとって環境に配慮した経営やサスティナブルな事業開発は避けて通れないテーマです。環境対策の提案や調査、環境影響評価や持続可能な開発プロジェクトなど、専門性を活かした職務を担える可能性があります。
政策立案や国際機関
国連や非政府組織(NGO)で気候変動や生物多様性の保全に取り組むなど、政策立案や国際機関での働き方もあります。
研究職や教育職
大学や研究機関での研究職として、環境に関する新たな知見を追求する道もあります。また、教育職に進むことで、次世代に環境の重要性を伝える役割を果たすことも大切です。
起業やスタートアップへの参加
再生可能エネルギーやエコロジカル製品の開発など、ビジネスを通じて持続可能な社会の構築に寄与するキャリアも人気です。
Q&A
Q. 高校時代の準備は?
高校時代に理系科目を履修していることを入学条件にしている大学が多くあります。科学や地理、化学や生物、物理などに力を入れて学んでおくと、入試だけでなく大学入学後の学習もスムーズです。
イギリスやオーストラリアの大学の場合は、大学1年に出願する前に「ファウンデーションコース」と呼ばれる入学前の準備コースの履修が必須となっているのが一般的です。環境学を志望している人の場合は、理系のファウンデーションコースが推奨されます。
「ファウンデーションコース(Foundation Course)とは、高校を卒業した学生が海外の大学に進学する際に必要となる準備コースのこと。大学に入学する前に受講する1年間のプログラムです。 特に、日本と異なる教育制度を持つイギリ[…]
課外活動で環境保護活動やボランティアに参加することもおすすめです。海外大学入試ではこういった活動も評価の対象となります。
Q. どのような研究プロジェクトに参加できますか?
選ぶコースや大学によって異なりますが、気候変動、森林再生、海洋保護など多様なプロジェクトに関わる機会があります。現地調査やラボでの実験、データ分析などの活動が含まれます。
絶滅危惧動物の保護に取り組んでいる地域などではそういった活動に携われる場合もありますし、「海が近い」「熱帯雨林がある」「キャンパスが島にある」など大学キャンパスの場所によっても面白いプロジェクトに関われるかもしれません。
Q. 環境学を学ぶメリットは?
地球規模の課題に取り組むスキルを得られる点が大きなメリットです。また、多分野と関わることが多いため、幅広いキャリアへつながります。
Q. 卒業後に役に立つスキルや経験は?
専門性に加えて、データ分析能力、プレゼンテーションスキル、そしてチームでのプロジェクト推進力が求められます。さらに、フィールドワークやインターンシップ経験もキャリアの強みになります。
Q. 語学力はどのくらい必要ですか?
出願時に求められる目安として、英語力であれば学部課程/修士課程ともにIELTS 6.5以上/TOEFL iBT 87以上は必要です(大学により異なります)。
また、環境学は一人で行う学問ではありません。入学後はグループでの活動も多いため、英語力というよりはディスカッション力やスピーチ力も磨いていきます。レポートをまとめるための文章力やリサーチ力もつけていくことになるでしょう。
語学力について不安な人も多いかもしれませんが、大学入学前に大学付属の英語コースや語学学校に通ったり、ファウンデーションコースで徐々に英語力を高めていくなど様々な方法があります。
語学力が伸びない人は一人もいませんので、心配な人は早めに対策し、着実に英語力を伸ばしていきましょう。
なお、海外大学や大学院への進学準備については下記の記事で詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください!
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環境学に興味が湧いたら
ここまで海外大学で学ぶ環境学留学についてお伝えしてきました!
「早く環境学を学びたい!」
そんな気持ちになった方もいるのではないでしょうか。
学校を選ぶ際はランキングだけでなく、予算やキャリアプラン、留学先の治安や気候、自分と留学先の国民性や相性にも合わせて留学先を選ぶことが大切です。
大学1年次から行くべきなのか、途中から編入するのがよいか、大学院から進学するか…などなど、環境学を学ぶ選択肢はたくさんあります。
「いろんな学校やコースを比較したい」
「実際にかかる費用を計算したい」
「合格の可能性を知りたい」
そんな方には、詳しいパンフレットや資料もお届けしています。まずはじっくり自分と照らし合わせながら、検討してみてくださいね!
\まずは情報収集から!/