「手話」の授業受けたことありますか?(2)~アメリカの大学の「ろう者学」専攻とは?~雨宮早紀(アメリカ留学生)

ろう者について学ぶ『ろう者学(Deaf Studies)』。現在、日本の大学では学ぶことができない『ろう者学』を、筆者はアメリカ・ニューヨーク州のラガーディアコミュニティカレッジ (LaGuardia Community College)で学んでいます。

ろう者の第一言語は手話です。手話は「言語」だというのが世界標準の認識ですが、まだ日本ではこの認識が浸透していないのが現実です。

この記事では、『ろう者学』という、日本ではまだ耳なじみのない専攻についてお伝えしています。第一回「学校の授業で手話を学べるアメリカ」では、日本で手話を学ぶ場合の現状、そして、日本とアメリカの手話教育の違いなどをお届けしました。

第二回となる今回の「アメリカの大学の「ろう者学」専攻とは?」では、筆者が実際に在籍しているカレッジのろう者学専攻の様子をご紹介します。

先述したとおり、日本にはろう者学専攻を設置している大学がありません。この記事ではアメリカ手話の特徴、手話クラスについて、手話以外の必修科目、チューター制度、そして進路選択についてご紹介します。

文法の要素として顔のパーツが含まれているのが手話

まず最初に、アメリカ手話の特徴からお話ししましょう。

アメリカ手話は目的語 主語 動詞(OSV)の語順で文章が構成されます。SVOで構成される英語とは違うので、アメリカ手話を表出するときは英語に依存しないことが重要です。

この語順を頭に叩き込む事で、英語とアメリカ手話はそれぞれ独立した言語であることを体に染み込ませます。

手話をする人は顔の表情が豊かだというイメージを持たれがちですが、それは感情が顔に表れているのではありません。文法の要素として顔のパーツが含まれているのも手話の特徴です。

アメリカ手話では、眉をあげるときはYes/No疑問文、眉を下げるときは疑問詞を用いた疑問文を意味します。

▼ASL (American Sign Language)を表す指文字
ASL指文字

教室の中で声を出すのは禁止

手話の授業中はもちろん、教室の中で声を出すのは禁止です。

これには二つの意味があります。一つは手話環境に没入するため、もう一つはろう者がいるスペースでは彼らの言語を含めた文化を尊重することが求められるからです。これらはノーボイスポリシー(No Voice Policy)と呼ばれます。

ノーボイスポリシーに則り、レベルにかかわらず授業は全て手話で行われます。しかし学生がホワイトボードに向かっていたら誰が何を発言したかクラスで共有できません。全員の発言をリアルタイムで確認するため、座席はセミサークル型に配置します。

勉強するのは手話だけではない

ろう者学専攻の必修科目は手話だけではありません。ろう者の歴史や文化、社会についても学びます。

手話言語学(Sign Language Linguistic)とアメリカろうコミュニティの社会学(Sociology of the American Deaf Community)の担当教授はろう者で、アメリカ手話で授業が行われます。

しかし、学生の手話のレベルにはばらつきがあります。そこで公平を期す為に授業は全て英語で同時通訳されます。また、学生は全ての発言を英語で行い、通訳者がアメリカ手話に通訳することで、学生と教授の情報保障がなされます。

※参考:情報保障

先輩学生や手話を母語とする学生がチューターに。

同じ専攻を履修した先輩学生、もしくは手話を母語とする学生がチューターとして学内で働いており、学習の支援を受けられます。勉強の方法、授業で行うプレゼンテーションの練習などにアドバイスをくれます。授業以外で手話に触れられる時間はとても貴重です。

勉強のサポートやプレゼンテーションの練習だけではなく、進路相談もできます。ろう者学専攻を終えた学生がどのような進路を選ぶのかというロールモデルが身近にいることで、自分のキャリアを描く手助けにもなります。

卒業生には幅広い進路選択の機会が。

筆者の大学では、試験に合格すると通訳者として州内の裁判所でのインターンシップの機会があります。また、ろう学校教員、ソーシャルワーカー、カウンセラーなど通訳者以外の進路選択も視野に入れて勉強をすることも可能です。

もちろん他大学への編入、進学も可能です。特別教育専攻に進む場合もあれば、ろう者学とは直接関係のない学部に編入する場合もあり、個人によって異なります。

文化的側面からろう者について学んでいくろう者学

ここまで、二回にわたってお届けしてきたアメリカでのろう者学教育。日本の大学にはないろう者学について、知っていただけたでしょうか。

筆者は、ろうの子どもを持った聴者家族がその子どもを聴覚障害児という視点だけでなく異文化モデルとしても受け止められるための支援がしたいと考えています。

聴こえない、という障害にフォーカスするのではなく、文化的側面からろう者について学んでいくろう者学。今後日本でも広がることを期待しています。

文:雨宮早紀(アメリカ留学生)
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