里帰り出産をしないドイツ流出産事情。そこにある5つの理由とは?~クリューガー量子(ハイデルベルク市公認ガイド)

待ちに待った出産。赤ちゃんに会える日がやって来ます。これからどのような生活が始まるのでしょうか。
 
育児情報誌「miku」の2011年11月のアンケート結果によると、日本の約60%の女性が里帰り出産をしました。一方、筆者はドイツ生活が14年になりますが、ドイツで里帰り出産をした女性を知りません。
 
なぜドイツ人女性は里帰り出産をしないのでしょうか。今日はその理由を探ります。
 

 

理由1:平均有給休暇取得日数が30日。

第一の理由は、父親が出産日に合わせて有給休暇を2~3週間取ることです。
 
ドイツの法律で定める有給休暇日数は24日で、平均有給休暇取得日数は30日です。父親は出産予定日に合わせて休暇を取り、喜びの時を家族と共に過ごします。授乳、買い物、掃除、兄弟の世話などを家族で分担し、皆で生活リズムを整えていきます。
 
更に、最近は有給休暇とは別に多くの男性が育児休暇を取っています。
 
2011年の男性の育児休暇取得率は25%。その内の75%は2ヶ月の取得、7%の男性が12ヶ月の取得です。
 
2007年に両親休暇制度が導入され、育児休暇をとる一方の親に、手当が出産後最長12ヶ月間支払われるようになりました。両親ともに育児休暇をとる場合は、更に2ヶ月延長することができます。支給される金額は、両親手当を受ける親の最近12ヶ月の平均純所得の65%で、月額1800ユーロが上限。父親が両親休暇をとる場合は父親の所得で、母親が両親休暇をとる場合は母親の所得で計算します。
 
有給休暇と育児休暇を組合わせて、家族全員で新たな暮らしをスタートさせます。
 

理由2:父親の帰宅時間が早い。残業をほとんどしない。

前記事「残業規制に揺れる日本。ドイツ人は日本人の10%も残業しません。」で、2013年のドイツの労働者1人当りの年間平均残業時間は47.2時間、日本の月平均残業時間は47時間であることをお伝えしました。
 
ドイツ人は残業をほとんどしません。会社帰りの同僚との一杯もありません。仕事が終わるとすぐに家に帰ります。
 
1日の労働時間は8時間。朝7時に仕事を始めると、昼休みを入れて16時には終業です。また、ドイツは小都市が多いため、通勤時間が30分を超える人は稀です。よって、帰宅時間は16時30分。8時始業の場合は17時30分には帰宅です。
 
帰宅後、父親は赤ちゃんの世話や夕飯の支度などをして、家族と共に過ごします。
 

理由3:助産師 が家を数回訪問し、両親の心のケアと子育てのアドバイスをする

ドイツには、赤ちゃんを授かった家族にとって嬉しい制度があります。
 
出産後、助産師が出産後10日間まで毎日家を訪問して、両親の心のケアと子育てアドバイスをしてくれるのです。これは保険でカバーされます。助産師は、授乳アドバイス、赤ちゃんのへその緒を切る手伝い、赤ちゃんの体重測定、赤ちゃんの初めての入浴手伝いなどをします。
 
この助産師訪問制度は、特に第一子出産で全てが新しく、戸惑いが多い時期のパートナーにとって、大きな助け、心の支えになっています。
 

理由4:親子は遅くても10代後半で親離れ子離れをする

ドイツの親子関係も里帰り出産の少なさと関係があります。ドイツでは親離れ・子離れが早く、それぞれ独立した関係を築く傾向が強いのです。
 
ドイツ人の60%が信仰しているキリスト教では、14歳になった子供は堅信を受けます。堅信とは、自らがキリスト教を信仰することを誓う儀式です。この儀式を境にして、子供は子供ではなくなり、親と子は新たな関係を築いていきます。
 
10代後半になり子供は恋人ができると、お互いの両親に紹介し、恋人の家族とも新しい関係を築いていきます。恋人の家族の誕生日会や結婚式などに出席し、大切な時を共有します。こうして、子供は親から精神的に自立していきます。
 
経済的にも自立すると、子供は実家を出ます。一人で、もしくはパートナーと共に生活しながら、新しいパートナー関係、自分の家族を作ることを模索していきます。
 
2015年のドイツ統計によると、18歳~24歳までの若者の62%が両親と同居。30代男女の両親との同居率は、男性が12%、女性は5%に留まっています。
 

理由5:自分の家が一番居心地よい。

ドイツ人にとって自分の家は一番好きな場所、落ち着ける場所です。
 
家を決める際の見学時、台所に案内されると水栓とガス栓があるだけで、棚やガス台をはじめ、何もないことがよくあります。これは全てを自分好みの仕様にするためです。壁紙や床の張替え、壁のペンキ塗り、照明選びなどをし、自分の家を時間をかけて作り上げていきます。
 
赤ちゃんを迎える家族は特別です。出産前に壁をペンキで塗り直し、ベビーベッドやオムツ交換台を置き、赤ちゃんの部屋を心を込めて綺麗に整えます。ここが赤ちゃんの部屋、新しい家族の一員の部屋なのです。わざわざ実家に帰る必要はありません。
 
パートナーと共に慣れ親しみ、大切にしてきた家が、赤ちゃんを迎える一番ふさわしい場所です。
 

自立した生活を送る。

なぜドイツ人女性は里帰り出産をしないのか。答えは、「自立した生活を送る」ことにあります。
 
仕事からの自立、労働時間からの自立、同僚や上司からの自立、両親からの自立、精神的な自立、経済的な自立。
 
出産後、赤ちゃんという新しいメンバーが加わる大切な時の過ごし方。誰と過ごしたいか、どこでどのように過ごしたいか。
 
家族でもう一度じっくり考えてみるのもいいかもしれません。

文:クリューガー量子(ハイデルベルク市公認ガイド)
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